研究課題/領域番号 |
16K07928
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
葉山 アツコ 久留米大学, 経済学部, 教授 (30421324)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2022-03-31
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キーワード | 育成的林業 / 人工林 / 採取的林業 / 国有林地 / 産業造林 / コミュニティ森林管理 / フィリピン / 天然林 |
研究実績の概要 |
天然林が豊かであった時代のフィリピンの森林は、木材輸出志向の資本主義によって掌握されていた。本研究は、ほとんどの天然林が消失したフィリピンの国土面積の半分以上を占める国有林地と資本主義、すなわち木材産業との関係を明らかにすることを目的とする。本研究の背景には、天然林減少に対して人工林造成が進展し、育成的林業が展開しているベトナムやインドネシアとは異なり、フィリピンは人工林造成が進展せず育成的林業へと転換することができずにいることがある。天然林減少を経験しながら、その後の展開に大きな差がある。 フィリピンの国有林地における人工林造成の担い手として期待されているのは、国有林地住民コミュニティと産業造林へ投資する企業である。両者に関する国家制度はすでに1970年度に作られているが、半世紀経ても人工林造成の進展はみられない。全国の国有林地住民コミュニティによる植林は成功しても造成された人工林は長期に維持されず、産業造林は、企業の投資先として魅力がない。これらの直接的原因は、1970年代初めの木材生産のピーク以降に急減した製材所数に象徴される木材産業の衰退である。 人工林造成などの資源政策は、木材産業育成策とともに統合的に推進される必要があるが、後者の不在は前者の進展を阻害する結果になっている。その根本的原因に関して、本研究は、マルコス時代からアキノ時代において政治が経済を大きく歪めたことにあると考える。マルコス時代の政治経済の特徴は、取り巻きへの優先的な伐採権付与も含め、取り巻き優先政策が取られたことにある。アキノ時代は、その反動で、取り巻き制裁政策が取られた。アキノ時代の伐採権保有者数の激減は、資源保全目的以上に取り巻きに対する制裁目的が強かったと考える。アキノ政権における林業における「非マルコス化」が、木材産業を衰退させ、それが育成的林業の展開を阻害する結果になったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究の遅れの最も大きな原因は2020年からのコロナ禍のためにフィリピンにおいて現地調査ができなかったことである。2019年度の春季休暇、2020年度の夏季休暇、春季休暇中に予定していた現地調査が全て取りやめになった。 フィリピンにおける最大の木材生産地であるミンダナオ島の北東部に位置するカラガ地方にて国有林地の監督官庁である環境天然資源省の地域事務所(北アグサン州ナシピット町)における現地調査、同地域事務所が監督するほぼ全ての製材所および合板会社での聞き取り調査が進んでいた。フィリピンの国有林地における育成的林業の不発の原因に関しては、これらの現地調査及び文献調査からかなり明らかすることができた。しかし、更なる現地調査は必要である。 さらに同地方では、国有林地外の私有地において私有地所有者が費用を負担し造成した人工林が、木材産業の主要な木材供給源になっていることがわかった。この点を考察するために私有地所有者への聞き取りを行い、土地利用の実態と変遷、人工林造成の費用と利益、人工林造成に関わる生産関係(木材会社との関係、仲買人との関係)などを明らかにする必要があるが、それができないままになっている。 また、国有林地において企業による投資によって展開が期待されながら、それが進まない産業造林の問題に関しては、環境天然資源省・森林管理局の担当者への聞き取りは行っているが、産業造林を目的に長期(25年)の国有林地利用権を付与されている企業に対する聞き取り調査は全く進んでいない。1970年代に制度化されていながら、産業造林に関する既往研究がほとんどなく、フィリピン林業に関して最もその実態が不明の分野であるため、現地調査が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
フィリピンにおけるコロナ感染者が2021年5月時点で110万人を超えていること、フィリピン国内のワクチン接種が進み方が遅いこと、外国人の受け入れが限定的であることを考えると、2021年度も現地調査は極めて困難であると思われる。そのため、2021年度は、今まで行ってきたフィリピンでの現地調査で収集した資料、さらには木材産業を含めた同国の工業化政策と製造業育成政策及び日本も含めた合板産業に関する文献調査を進める。これらの資料分析と文献調査は、本研究を進める上で非常で重要であるため、現地調査ができないこの機会を有効に活用し、本研究の考察を深めたい。 フィリピンでは、2名のフィリピン人調査協力者が、1970年からの国有林地における人口動態を明らかにするために全国の自治体への電話あるいはe-mailでの調査を続けている。コロナ禍のために困難はあるが、データ収集とその整理は進んでいる。 2021年度は、4年間を予定して 基盤研究(C)「フィリピンにおける植林政策失敗の研究ー産業政策からのアプローチ」が始まっている。植林政策を中心に置いたこの研究課題には、本研究、基盤研究(C)「木材流通からみる資本主義によるフィリピン山村部の掌握」において、現地調査にて十分データ収集ができなかった課題、特に木材産業育成策と国有林地内外における植林との関連及び産業造林政策の実施と課題の解明も含まれている。今年度開始の新たな研究課題においても現地調査が必要であるが、フィリピンでの現地調査が再開するまでは文献調査を進めていく。現地調査が可能になった時に2016年度からの研究課題、2021年度からの研究課題の両課題からフィリピンの森林政策、林業の構造問題を明らかにする調査が適切に行えるように準備をしておきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために2019年度の春季休暇、2020年度の夏季休暇、2020年度の春季休暇中に予定していたフィリピンでの現地調査は全てキャンセルになったが、それまではほぼ毎年現地での調査を進めてきた。海外旅費、謝金、車両借り上げなど調査に必要な項目の支出は行っているが、書類の整理、提出が大幅に遅れている。近いうちに今までの支出に関する必要書類を整理し、全て提出する予定である。
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