土壌中における窒素炭素動態の理解は,農業の持続的展開・気候変動への適応等のために重要である.これまでに,物理的・化学的な要素研究は多く行われたてきたが,これらと土壌微生物活動を関連付けた研究は遅れている.しかし,土壌中の窒素炭素動態は微生物活動の結果であり,絶えず変化する水分量や水移動の影響を考慮せずに現象を理解することは困難である.そこで本研究では,近年開発された土壌の簡易ATP量測定法を取り入れた一次元カラム実験を行い,水分移動が土壌中のアンモニア態窒素・硝酸態窒素・ATP濃度の分布に与える影響を明らかにすることを目的とした.さらに,実験結果を微生物活動を考慮した一次元土中水分溶質移動モデルで再現することを目指した. 畑土壌を充填した一次元カラム蒸発実験では,蒸発過程における含水率・アンモニア態窒素・硝酸態窒素・ATP濃度の分布の変化を明らかにし,その結果を水分溶質移動モデルで再現した.硝化の速度定数の含水率依存を考慮すると,速度定数を一定値として与えた場合よりも硝化にともなう窒素動態を精度よく再現できた.さらに,硝化の速度定数をATP量から推定できる可能性が示された.また,畑土壌を充填した一次元カラム浸潤実験では,浸潤過程におけるカラム内のアンモニア態窒素・硝酸態窒素・ATP濃度の分布の変化に加え,カラム下端からの排液中のアンモニア態窒素・硝酸態窒素・主要陽イオン濃度の変化を明らかにし,それらの結果を水分溶質移動モデルで再現した.このとき,溶存態と吸着態のアンモニア態窒素が等しく硝化すると仮定した場合よりも,吸着態のアンモニア態窒素の硝化速度定数が小さいと仮定した場合に実験結果をよく再現できた.
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