研究課題/領域番号 |
16K07938
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
大澤 和敏 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (30376941)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 土壌環境保全 / 環境調和型農林水産 / 土壌侵食 / 水・物質動態解析モデル |
研究実績の概要 |
本研究課題では,農林地や流域における土壌保全および流域水・物質動態解析の主要なシミュレーションモデルであるWEPPを対象として,米国外の日本をはじめとする諸外国でもモデルの適用性を向上させるため,気象や土壌情報を統合的に整備し,その共有化を図るため,資料分析,室内実験,現地試験,そして数値シミュレーションを通して遂行することを目的としている。 平成29年度は,気候変動の把握のために,栃木県北部における那須高原,黒磯,大田原の3地点でのアメダス観測所の気象観測値を利用して気象要素のトレンド分析を実施した。観測期間は,一部の地域,項目を除いて1976年から2016年までの41年間とした。Sen法を用いてトレンドを算出し,Mann-Kendall検定を用いてトレンドの有意性を評価した。分析の結果,最高気温のトレンドは,全ての地点で有意に増加していた。また,30mm/h以上の日数,年最大1時間降水量,年降水量,日降水量50mm以上の日数のトレンドは,増加傾向が見られた。以上のことから,栃木県北部では温暖化が進行していることが示唆され,洪水の規模や発生頻度が今後さらに増大する可能性が示唆された。 また,土壌侵食の主要な要素であるインターリル侵食およびリル侵食の実験系を用いて,いくつかの土壌の受食係数(インターリル受食係数,リル受食係数,限界掃流力)を同定した。供試土壌は沖縄県における国頭マージ,島尻マージ,ジャーガル,栃木県における黒ボク土とした.得られた受食係数をWEPPモデルに入力して標準的な斜面で侵食量を解析した結果,沖縄県の3種の土壌の侵食量は,国頭マージ>島尻マージ>ジャーガルの順であった。栃木県における黒ボク土は沖縄県の土壌より高い受食性を示した。これらの受食性の違いは,粒度組成や有機物含有率などの土性が影響していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況としては,概ね計画通り順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は,以下の4つの具体的目標のもとで遂行される計画にある。(a)過去から将来の気象入力要素の全国的整備および統計処理,(b)国内主要土壌を用いた土壌の受食性の系統的評価,(c)土壌物性値を用いた受食性係数の推定法の開発,(d)新たに整備された情報を用いた水・物質動態の地域毎の比較・評価。 平成30年度は以下の事項について進める.(a):解析対象を日本全国として,約150地点の地上気象観測所に加えて約850地点のアメダス観測所の過去数十年分のデータを用いて解析する。また,構築した気象入力要素に,地球温暖化による気候変動の要素を加えた解析を行う。(b):平成29年度の侵食実験では沖縄県の赤色土や栃木県の黒ボク土を供試土として用いたが,平成30年度は群馬県(黒ボク土),広島県(マサ土),北海道(黒ボク土)などの代表的な畑地土壌を採取して,受食係数に関する室内実験を実施する。また,沖縄県石垣市における野外試験を継続し,室内実験で得られた結果との整合性を評価する。(c):(b)で得られた各侵食係数と粒度組成や有機物含有率の土壌物性値を用いた推定式から算出される推定値を比較し,推定式を日本の土壌へ適用できる形へ改良する。また,経験的モデルであるUSLE(Universal Soil Loss Equation)の土壌係数Kを,室内実験によって得られた侵食係数をWEPPに入力して侵食量を求めてから,逆算することによって求める。それによって,経験的モデルのUSLE(およびSWAT)とプロセスベースモデルのWEPPの整合性を高める。(d):地形,土地利用,営農方法の情報を収集し,GISにまとめ,国内で,土壌侵食および過剰な土砂流出が問題視されている沖縄県などの地域を対象としてWEPPを用いた圃場スケールと流域スケールの解析を実施し,各地域で今後展開すべき侵食防止対策の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額として5,222円繰り越すことになったが,消耗品費が予定より少額で済んだことによる。 (使用計画) 繰越額の5,222円の使途として,試料の室内分析に用いる濾紙等の消耗品の購入に充てる。
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