本研究課題では,農林地や流域における土壌保全および流域水・物質動態解析の主要なシミュレーションモデルであるWEPPを対象として,米国外の日本をはじめとする諸外国でもモデルの適用性を向上させるため,気象や土壌情報を統合的に整備し,その共有化を図るため,資料分析,室内実験,現地試験,そして数値シミュレーションを通して遂行することを目的としている。 最終年度である平成30年度は,目標(a)の過去から将来の気象入力要素の全国的整備および統計処理に関して,構築した気象入力要素に,地球温暖化による気候変動の要素を加えた解析を行った。群馬県や沖縄県における将来的な水食リスクを評価した結果,降水量が増加した際に必ずしも侵食量が増加するとは限らないことが示唆された.目標(b)の国内主要土壌を用いた土壌の受食性の系統的評価に関して,沖縄県石垣市における野外試験を継続し,室内実験で得られた結果との整合性を評価した。その結果,受食係数に試験値を用いて計算した侵食量は,推定値を用いて計算した侵食量より実測値と高い整合性をもつことが示された。目標(c)の土壌物性値を用いた受食性係数の推定法の開発に関して,経験的モデルであるUSLE(Universal Soil Loss Equation)の土壌係数Kを,室内実験によって得られた侵食係数をWEPPに入力して侵食量を求めてから,逆算することによって求めた。それによって,経験的モデルのUSLEとプロセスベースモデルのWEPPの整合性を高めた。目標(d)の新たに整備された情報を用いた水・物質動態の地域毎の比較・評価に関して,地形,土地利用,営農方法の情報を収集し,国内で,土壌侵食および過剰な土砂流出が問題視されている沖縄県を対象としてWEPPを用いた解析を実施し,今後展開すべき侵食防止対策の検討を行った。
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