本年度は,研究期間に製作した長さ2m,高さ0.8m,奥行き0.03mの規模を有する溶質輸送実験装置を用いて,自然の地質状態を模擬した地下水流れ場を形成するとともに,水溶性物質の輸送挙動について実験的・数値解析的に考究した.溶質の空間変動性に大きく寄与すると考えられる透水係数分布の自己相関性を変えた複数の地質状態をターゲットに設定した.その結果,相関性の増加,ならびに,不均質性の増加に応じて,非フィック則となる異常輸送現象の発現により,溶質の分散性が高まる点を捉えることができた.つまりは,相関長が高い場ほど低透水領域から高透水領域までの溶質の移行距離が長くなり過程での異常輸送性の発生により,溶質が拡大しやすい結果につながることがわかった. 並行して,硝酸態窒素のような水溶性物質が揚水井に到達する領域をランダムウォーク粒子追跡法により解析・可視化する方法を考案し,リスクマップとして三次元確率空間分布を時系列で推定する方法を提示した.実フィールドを対象として,揚水井への溶質粒子到達とトラベルタイムの算定,任意幅のアンサンブル格子の導入,既定時間内に集粒域になる格子確率の導出から構成されるアルゴリズムについて言及した.不均質性の異なる場に対して,三次元集粒域の時系列結果を提示するとともに,任意の確率以上の格子から成る三次元集粒域の体積は不均質度に依存せず,揚水量に依存することを示した.また,各格子の確率をエントロピーと関連付けて,不均質度の増加は非ゼロ確率から成る三次元集粒域の体積増加につながる点を定量評価した.また,ラボ実験と連動することによって,不均質透水場を移行する溶質の分布形態を定量するとともに,揚水井での物質回収状態と所要時間の関係について定量化し,開発した溶質移行シミュレータによって,時間・空間分布に応じたリスクマップを提示した.
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