研究課題/領域番号 |
16K07951
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
森 淳 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門 技術移転部, 教授 (10414418)
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研究分担者 |
小出水 規行 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門 水利工学研究領域, 上級研究員 (60301222)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境DNA / 炭素安定同位体比 / 窒素安定同位体比 / 農業農村整備事業 / 生態系配慮 |
研究実績の概要 |
農業農村整備事業における環境配慮対策の生物調査では,事業着工前後における生物個体の捕獲調査が用いられている.この手法は,調査経費や時間がかかるのみならず,現象をスナップショットとして捉えることから,いつもそこで起きている事象であるという証左とは断言できない.本研究課題では,炭素・窒素安定同位体比およびeDNA(環境DNA)を用いた農村生態系の解析手法を利用して,生物多様性の定量的分析に基づく農業水利施設における生息場特性に配慮した評価手法を開発する. 平成28年度においては,当該年度の研究実施計画にしたがって,以下の取り組みを行った. 安定同位体解析では,岩手県奥州市のいさわ南部原川地区において,モツゴを指標として生息地間のδ13C-δ15Nを比較したところ,流水域-止水域間のみならず,止水域間でも差異が存在することが明らかになった.このことは,後述する琵琶湖逆水の調整池として利用されている日野川流域の溜池のブルーギルのδ13C-δ15Nに固有性があり,それをもとに琵琶湖から移送された個体と溜池で再生産されている個体を区別できる可能性を示している. eDNA解析では,琵琶湖からポンプアップした灌漑用水について,その送水による外来生物の分布拡大が懸念されていることから,滋賀県日野川におけるブルーギルを対象にeDNA分析に基づく生息分布の推定手法の開発に取り組んだ.今年度は予備解析として,eDNAからブルーギルDNAを検出するための種特異的プライマー(既存のもの)の機能を確認した.河川下流から上流の4地点で採水したeDNAサンプルを解析した結果,上流2地点でブルーギルのDNAが検出され,当該種の生息を推察することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の調査計画のうち,調査地の選定は順調に進み,これまで研究の蓄積のある岩手県のいさわ南部地区に加え,琵琶湖においても調査を行うこととした. サンプリングと生物の炭素安定同位体比(δ13C),窒素安定同位体比(δ15N)分析についても順調に進めることができたが,分析を担当していた契約職員が退職し,また研究代表者の所属機関が変わったため,今年度からは外注で対応する予定である. サンプリングと水路環境水の環境DNA解析についても順調に進んだ.特に琵琶湖からポンプアップするパイプラインを通じて外来生物が拡散していることが示唆される分析結果が得られたことは,農業水利施設の生物多様性保全機能を客観的に評価するうえで新たな評価軸となると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
計画通り,環境DNAによる最適種多様性評価手法の開発およびδ13C・δ15Nと種多様性の関係解析を進め,効率的な生物多様性評価手法を開発し,農業農村整備事業における生態系配慮を効率的に行うための提言をとりまとめる. 取りまとめにあたっては、農業水利施設が有する生物多様性保全機能を多様な視座から評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
安定同位体比分析を担当していた契約職員が年度途中で退職したため,試薬,リファレンスガス等の支出が減額となった.
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次年度使用額の使用計画 |
同位体比分析を外注する. 分析費用はδ13C・δ15N同時計測で12,000円/検体であるため,サンプル毎に重要性を十分検討したうえで外注することとする.
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