研究課題/領域番号 |
16K07963
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
大橋 唯太 岡山理科大学, 生物地球学部, 准教授 (80388917)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 農業気象 / 微気象 / カンキツ果樹 / 気象モデル |
研究実績の概要 |
当該年度は、以下の課題を実施できた。 (a)実際のカンキツ収穫量と気象条件の関係分析:全国的にカンキツ収穫量の多い愛媛県を対象に、生産量上位の品種に対して年別の収穫量と気象条件の関係性を分析した。その結果、いくつか特定の品種で低温脆弱性が認められ、冬季の低温継続時間とその年の収穫量を定量的に関係づける回帰式を得ることができた。 (b)寒害事例の気象シミュレーション:ワークステーションとモデル計算設定の構築が完了し、事例シミュレーションに進むことができた。愛媛県西部としまなみ島嶼部を中心としたカンキツの過去の寒害事例を調べ、水平解像度500mで寒波襲来の気象シミュレーションに成功した。この計算結果を用いて、(a)で明らかとなった寒害のリスクファクターである低温継続時間のマッピング、(a)で得られた回帰式から算出された減収リスクのマッピングをそれぞれ作成することができた。 (c)愛媛県西部としまなみ島嶼部での果樹栽培と寒害事例の調査:(b)の数値シミュレーション結果を踏まえて、現地で実際の地形や果樹栽培の様子を確認することで、リスクマップの特徴の考察を深めることができた。また、研究協力者から過去に起こった寒害被害の詳細分布の情報を提供してもらうなど、次年度に超高解像度の気象シミュレーションへ発展させる目標につながった。 (d)夏季・秋季・冬季のカンキツの品質と気象条件の実地調査:前年度に引き続き、実際のカンキツ圃場において果実の横径と糖酸度を測定し、季節ごとの気象条件との比較分析をおこなった。また、ウンシュウミカンに限らず他の品種データ(web上データ)についても、季節ごとの気象条件との比較ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の当初の実施計画は、以下のとおりであった。 (1)平成28 年度の研究で特定した過去の夏季極端高温と冬季極端低温イベントの期間に対して、気象シミュレーションをおこなう。 (2)気象シミュレーションで再現された気温をはじめとする気象要素について、気象庁が設置する気象観測点アメダスで観測された実際の値と比較し、気象モデルの精度検証をおこなう。 (3)対象地域で栽培の盛んなカンキツ果樹であるウンシュウミカンとレモンを対象に、シミュレーション結果にもとづく生理障害等ハザード(高温・低温ダメージマップ)を作成する。 (1)については、冬季に襲来する寒波イベントによるカンキツの寒害リスク・シミュレーションを実行できた。ただし計算領域や格子設定の関係で計算機スペックが不足する事態が判明し、現状では水平解像度が500mまでしか対応できていない。また、夏季の高温イベントに対しての気象シミュレーションが実行できていないが、具体的な寒害のリスク・シミュレーションと成果発表を開始できた点は、当初の目標をひとまずクリアしたと考える。(2)については、冬季寒波の気象シミュレーションと気象庁アメダスの地上気象要素を定量比較することができた。その結果、夜間の最低気温がモデルでは過小評価される傾向がみられたが、日変化はよく再現されていた。したがって今後、物理過程の選択や格子設定などの変更によって改良の余地はあるものの、より現実的なリスク評価が見込めると期待できる。(3)については、(1)の計算結果から、沿岸部であっても樹園地の広がる斜面地域で寒波による減収リスクの増大が確認された。これは気象庁アメダスで観測される気温では把握することが難しい一方で、高解像度の気象シミュレーションが実際に有効なリスク回避ツールになり得ることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の当初の研究実施計画は以下のとおりであった。 (1)将来想定される異常気象イベントの発生シナリオに対するカンキツ成長阻害・生理障害のリスクマップを、数値気象シミュレーションから作成する。 (2)(1)の結果に対して、果樹農家や自治体関係者が異常高温や異常低温の発生に対策を立てやすい、カンキツの減収予測など量的に表現した二次マッピングを検討する。 前年度では計算機スペックの問題から水平格子間隔100~200mという超高解像度シミュレーションまで至っていないため、本年度は計算機スペックを物理的に向上させて再計算する予定である。また、寒波襲来時の夜間気温低下のモデル過小評価についても初期・境界条件や物理過程の変更などから再検討する。この点については気象シミュレーションに経験の深い研究者からアドバイスなど協力を受ける予定である。夏季の高温イベントの気象シミュレーションも残された課題であるので、実施する予定である。最終年度ということから、前年度以上に研究成果を関連学会や国際会シンポジウムなどでも積極的に公表していく。 (1)については前年度に残された課題をクリアしたあとに実施することになる。これは、過去に起こった気象イベントの再現性をまず担保したうえでの発展型テーマであることが理由である。(2)についてはすでに、カンキツ被害の気象リスクファクターの一次マップから減収リスクの二次マップへと展開することができているので、この二次マップが専門家や農家、自治体関係者にとって有効かどうかを議論していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)前年度からの繰り越し金も使用して学会発表や現地調査をおこなったため、余剰金が生じた。 (使用計画)気象シミュレーションを実行する計算機スペックが不足していることが判明したため、物理メモリの増設や、結果として増大する計算データを格納しておく物理ディスク容量を増やすことに使用したい。
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