研究課題/領域番号 |
16K07966
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研究機関 | 静岡県環境衛生科学研究所 |
研究代表者 |
神谷 貴文 静岡県環境衛生科学研究所, 環境科学部, 主査 (70520980)
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研究分担者 |
申 基チョル 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 助教 (50569283)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ストロンチウム / 重元素安定同位体比 / ワサビ / 微量元素 / 産地判別 |
研究実績の概要 |
本研究は、重元素安定同位体比について、ワサビをはじめとする農産物と地域地盤との関係性を明らかにし、産地判別手法を確立することを目的としている。平成28年度は、これまで対象としてきた静岡県内のワサビ生産地に加え、岩手県、栃木県、東京都、長野県、島根県といった主要産地の微量元素やストロンチウム(Sr)安定同位体比データを統合し、比較検討した。その結果、Sr同位体比は地質の特徴によって異なる値となり、同地点のワサビと水の値がほぼ一致することを確認した。第四紀の新しい火山岩地域である静岡県の伊豆・富士山地域ではSr同位体比がほとんど0.7040以下と最も低い値となり、中生代の花崗岩や堆積岩が分布する長野県や東京都では0.7095以上で高い値となった。また、バナジウムなど地域分布に特徴のある微量元素濃度とSr同位体比を組み合わせて比較することで、より細かく生産地を見分けることが可能になるなど、ワサビ産地判別に有用であることが確認できた。 他の農産物にもSr同位体比や微量元素を用いた本手法を適用できるように、静岡県内の主要河川流域を対象とした同位体・微量元素マップを作成するにあたり、平成28年度は主に安倍川流域の同位体・水質データの整備を行った。 重元素のうち、ネオジミウム(Nd)や鉛(Pb)の同位体比測定に関して、試料の前処理としてSpec樹脂によりREE(Nd)-Sr-Pbを同時に分離する方法の適用を検討した。また、NdはTIMSを用いて、PbはマルチコレクタICP-MSを用いて高精度かつ効率的な分析方法を検討した。その結果、水のNd-Pbは含有量が少ないため、各元素ごとに数リットル以上必要であること、水試料からNdを共沈で分離する方法、植物試料の低温灰化装置を用いた前処理法など、分析で必要となる試料の量や処理方法に関する情報を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の目標としていた、静岡県外の主要なワサビ産地のワサビ及び水試料のSr安定同位体比の測定を予定通り行い、水-ワサビ間の微量元素やSr安定同位体比の関係性を多面的に把握できた。また、同じく28年度の目標であったNd,Pbの高精度で効率的な同位体分析方法の検討を行い、ワサビ及び水、堆積物試料の測定に道筋をつけることもできた。加えて、平成29年度から開始予定であった静岡県内の河川を対象とした微量元素や重元素安定同位体比の実測についても、安倍川流域等で前倒しして行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度で検討したNd,Pbの効率的な安定同位体分析法を用いて、土壌-水-ワサビ間の安定同位体比の関係性を、Nd,Pbについて把握する。特に、ワサビ田の土壌については、外部から持ち込まれている圃場もあるため、Sr安定同位体比の水-ワサビが一致しているのに対して、NdやPbはどのような関係性があるかについて検討する予定である。ただし、Srのように広範囲の各生産地を対象とするのではなく、狭い範囲において関係性を検証することとする。 重元素安定同位体比を用いた産地判別手法を畑作物への適用を検討するため、平成29年度は静岡県の特産となっているジャガイモと土壌の関係性を明らかにしていく。また、静岡県内の河川を対象とした微量元素や重元素安定同位体比の実測を継続して行い、多くの農産物に適用可能なデータベースを作成していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
英文校閲費として平成28年度に使用することを想定していたが、平成29年度の分析結果と合わせて論文を作成することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度中に科学論文の英文校閲費として使用する。
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