本研究は、重元素安定同位体比について、ワサビをはじめとする農産物と地域地盤との関係性を明らかにし、産地判別手法を確立することを目的としている。平成28年度は、ワサビ主要産地の微量元素やストロンチウム(Sr)安定同位体比データを解析し、これらの元素や同位体がワサビ産地判別に有用であることを確認した。平成29年度は、これらの手法の畑作物への適用を検討するため、バレイショを対象に、土壌の交換性画分―バレイショ間の元素やSr同位体比の関係性を調査し、両者には相関関係がみられたが、畑土壌は長年にわたる肥料や降水の影響を受けていると考えられた。平成30年度は3種類の土壌を用いてバレイショを栽培し、降水や肥料の散布量の違いがバレイショのSr同位体比にどの程度影響を及ぼすかを把握した。降水や肥料のSr同位体比は土壌と比べて高く、バレイショのSr同位体比への影響がみられたが、もともと土壌が持つ交換性Srの量によってその影響度は異なることが示唆された。 他の農産物にもSr同位体比や微量元素を用いた本手法を適用できるように、静岡県内の主要河川流域を対象とした同位体・微量元素マップを作成した。平成29年度は主に天竜川および大井川流域、平成30年度は安倍川、興津川の同位体・水質データの整備を行い、既存のデータと合わせて全県をカバーした。 重元素のうち、ネオジミウム(Nd)と鉛(Pb)の同位体比測定に関して、平成30年度はワサビ実試料を用いて検討したが、目的元素の含有量がきわめて少なく、一試料での測定は不可能であった。また、複数試料をまとめて必要な元素量(5ng以上)を確保する方法で実験を行ったが、本法では元素分離段階で目的元素の損失量が多く、十分な元素分離が出来なかった。産地判別へのNd、Pbの実用化には、新たな元素分離技術の開発とともに、ごく微量でも測定できるような手法・装置の開発が必要である。
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