研究課題/領域番号 |
16K07976
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
那須 潜思 仙台高等専門学校, 総合工学科, 教授 (80208066)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腸内細菌検査 / 画像処理 / サルモネラ / EHEC / O157 / 感度 / 特異度 |
研究実績の概要 |
検体撮影によって得られる病原性の陽性/陰性画像の収集に関しては,H28年度から引き続きBMLフードサイエンスの協力を得て,同社の検査センター内で検査終了後の実検体の観察ならびに撮影を行った。SS,CT-SMAC,EMACⅡの各寒天培地を合わせて,H29年度には約1000検体の撮影を行い,陰性検体については十分な検体数を入手できた。一方,陽性の実検体は,その当日に当検査センターに検査依頼を受けた検体の中で専門の検査技師によって陽性が疑われたものであり,発生割合は低い。そのため,陽性の実検体のほかに,陽性として冷凍保存された菌株を陰性便に混入して作成した疑似陽性検体も加え,サルモネラ,EHEC,O157それぞれについて陽性検体を総数で約120枚,60枚,20枚ほど撮影できた。 陽性/陰性の判別アルゴリズムの検討ならびにプログラムの開発に関しては,まずH28年度に実現していなかった撮影画像の中からシャーレ部分の自動抽出を実現した。また,抽出されたシャーレ内部について培地部分とコロニー部分を自動で区別する方法を検討した。まだSS培地だけで動作確認できた段階であるが,コロニー部分は多少培地も含めて広めに抽出できている。このコロニー部分を切り出した後で陽性/陰性の判別をすることによって判別精度が上がり,感度100%を保ちつつ特異度を向上させることができた。陽性/陰性を判別するための特徴量については,データベースの形態を取ってはいないが,プログラムに組み込むことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
次の検討課題①~⑥の中で,H29年度には主に④と⑤について検討しつつ③に立ち戻ってプログラムの見直しを行うことを予定しており,概ねその方針に即して進めることができた。①SS,CT-SMAC,EMACⅡの各寒天培地において,生育したコロニーの発色の観察と撮影,②検体撮影時の光源形状および配光の検討,③判別のためのアルゴリズムの検討ならびにプログラムの開発,④培養された病原菌および非病原菌を対象とした識別の予備実験,⑤陽性菌と陰性菌ごとの色特徴データベースの作成,⑥実際の腸内細菌検査の検体を用いた陰性の判別実験 まず,検討課題①の検体画像サンプル数の確保に関して,陽性の実検体はわずかしか存在しないため,当日検査分の陽性の実検体のほかに,陽性菌株を陰性便に混入した疑似陽性検体を作成して,陽性検体サンプルとしたが,最終的な陽性検体画像数は,まだ十分ではない。特に出現確率がほぼ0である赤痢に関しては全くない。検討課題③に関しては,H28年度に実現していなかった処理を追加することに成功し,判別精度の向上を図れたが,SS,CT-SMAC,EMACⅡのそれぞれの培地に対して,対応するターゲット菌種の判別を別個のプログラムで行っている状況である。検討課題④と⑤に関しては,判別に必要な特徴量について検討し,データベースの形態を取ってはいないがプログラムに組み込むことができた。 以上のように,順調に進捗している面もあるものの,判別プログラムが培地ごとにばらばらであり,一連の判別処理が行える状態になっていないことや,EMACⅡ培地におけるEHECの判別の動作が不十分であるなどの理由から,全体としては計画と比べてやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として,まずは陽性/陰性の判別実験を行うために必要な陽性の実検体画像のさらなる追加が必要であり,引き続きBMLフードサイエンスに依頼して,検体画像の撮影を実施することが必要である。判別プログラムに関しては,3つの培地が混ざった状態から判別を開始するためには,最初に画像の培地がSS,CT-SMAC,EMACⅡのうちどれであるかを識別できる必要があり,この点についてはこれからの検討が必要である。また,EMACⅡ培地におけるO26,O111の発色は,O157と比べて赤系に寄っている場合が見受けられ,陰性菌との判別が十分でない点も特異度を低下させる一因と考えられ,特異度を向上させるためには,判別における特徴量の追加を検討する必要がある。 一方,陽性/陰性の判別実験において感度・特異度が十分でない場合には,光源として特定の発光波長のLEDを組合せることによって,微妙な色の識別能力を高める方法を模索することを当初予定していた。しかし,ポータブル分光器を用いて小さいコロニーの狭い領域だけの色調を測定することは,予想以上に困難を極めており,実現の見通しが立っていない。引き続きこの検討は続けるが,この方法を使わずに白色光源で正確な判別を行えるようソフトウェアの方で対処することも視野に入れる。 検体画像数の確保とプログラムの作成ができた後で,実検体を使って陽性/陰性の判別実験を行い,感度・特異度がどれほどの値にできるのか検証実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画と比べて研究進捗がやや遅れており,当初購入を検討していた波長可変の光源の選定ができず,購入をしなかったため。
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