研究課題/領域番号 |
16K07982
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
平田 統一 岩手大学, 農学部, 助教 (20241490)
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研究分担者 |
喜多 一美 岩手大学, 農学部, 教授 (20221913)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルギニン / 牛 / 繁殖 / 定時授精 / 定時胚移植 / 受胎率 / 体外受精 / 体外培養 |
研究実績の概要 |
生産現場での活用を意図し、平成28年度に実施した方法からより簡易、低コストに改変した牛定時授精プロトコールの卵胞発育期にアルギニン(Arg)5gを頸静脈内投与することで、受胎率は対照区の47.6%(10/21頭)から76.2%(16/21頭)に有意に(P<0.05)改善した。この成果は、プロスタグランジン製剤と性腺刺激ホルモン放出ホルモンの各1回投与による簡易で低コストな排卵同期・定時授精法でも、卵胞発育期にArg 5gを投与することで十分な受胎率を確保できる、生産現場で活用可能な新規繁殖管理技術になり得る。 牛卵子成熟培養液にArgを添加すると体外発生率が向上することから、Argが受胎率を改善する機序の1つに、卵胞・卵子成熟に関与する可能性が考えられた。体外から投与されたArgが卵胞・卵子成熟に関与するためには、まず血中から卵胞液中に移行する必要がある。これを確認するため、黒毛和種雌牛7頭を用い、Arg 60g投与後の血中および卵胞液中各種アミノ酸濃度を測定した。その結果、Arg投与後3時間の卵胞液中Arg濃度は血中濃度よりも高かった。このことは、Argが血中から卵胞液中に能動的に取り込まれる可能性が考えられる。一方、血中と卵胞液中のArg代謝速度の相違に因ることも考えられ、さらに検討が必要である。いずれにしても外部から投与されたArgが卵胞液に移行し、卵胞や卵子の発育・成熟に係わる可能性が示唆された。また、Arg投与後3、5時間の血中、卵胞液中のArg濃度は、それぞれのArg投与前濃度よりも有意に高かった。3、5時間後の卵胞液中オルニチンおよび3時間後の血中オルニチン濃度はそれぞれのArg投与前濃度よりも有意に高かった。これに対し、血中および卵胞液中のシトルリン濃度に有意な変動はなかった。これらの結果に生理的な意義があるか、さらに検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の平成29年度実施計画では、定時授精、定時胚移植におけるアルギニン(Arg)の活用と受胎率の向上効果の確認、性ステロイド濃度の測定、血中アンモニア濃度や一酸化窒素濃度の測定、生体由来牛卵子の体外成熟・受精・発生培養液におけるArg添加、を研究課題として挙げた。この内、血中一酸化窒素濃度を除く課題を実施した。一方、食肉処理場由来牛卵子の体外成熟液にArgを添加することで胚発生成績が向上したことから、Argが牛卵丘細胞に直接作用し、卵子成熟、発育能の獲得に係わることが想定された。体外から投与されたArgが生体内で卵丘細胞に作用するためには血中から卵胞液中に移行する必要がある。従って、計画から派生した研究課題として、Arg 60g投与後の血中および卵胞液中の各種アミノ酸濃度を測定する試験を実施した。このことは当初計画を上回る研究の進展であることから、「当初の計画以上に進展している」と自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画ではアルギニン(Arg)が雌牛の妊孕性を改善・向上させるだろうことを想定し、外部から投与したArgが、バイオプシーにより採取した子宮内膜上皮細胞の上皮性成長因子(EGF)遺伝子発現牛に及ぼす影響について検討することにしていた。しかし、卵子の体外成熟液にArgを添加することで胚発生成績が向上したことから、Argが牛卵丘細胞に直接作用し、卵子成熟、発育能の獲得に係わることが想定された。従って、Argが卵子成熟、発育能の獲得に係わるか 検討する研究課題の方が優先度が高いと考えられた。そこで、牛卵子の体外成熟培養液、場合によって体外受精液にArgを添加した場合としなかった場合の、成熟培養終了後卵丘細胞、卵子、これらを体外受精・培養した後の胚盤胞について、その遺伝子発現の相違をRNA-seq法などを用いて網羅的に検証し、もってArgがどのような機序で定時授精後の牛の受胎率を改善し得るのかを明らかにし、臨床応用、ひいては日本畜産業の発展に寄与する、アミノ酸を用いた栄養学的見地からの新たな繁殖管理技術を開発する。
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