研究課題/領域番号 |
16K07985
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
保地 眞一 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10283243)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超低温保存 / 妊孕性温存 / 糖尿病治療 |
研究実績の概要 |
ウシ卵核胞期 (GV) 卵丘卵母細胞複合体 (COC)、ならびにラット膵ランゲルハンス島 (膵島) の超低温保存に関する研究を開始した。
未成熟なウシ卵母細胞については、成熟裸化卵母細胞で最適化されていたガラス化保存法をそのままGV-COCに適用し、加温後に体外成熟 (IVM)、裸化処理、体外受精 (IVF)、発生培養 (IVC) の順で処理しても、胚盤胞発生率は10%程度と低かった。さらにGV-COCから卵丘細胞層を完全に除去してしまうと、IVM後に核成熟はできても細胞質成熟が不完全となり、ガラス化保存には適さないことがわかった。そこで卵丘細胞層を薄くするダウンサイズ処理をGV-COCに施してから、ガラス化・加温、IVM、IVF、IVCに供したところ、世界最高水準の30%を超える胚盤胞発生率を達成することに成功した。
ラット膵島については、一般的な培養細胞の保存に汎用されているBicell凍結法とダウンサイズCOCに有効だったCryotopガラス化法の直接比較を行った。凍結・融解直後とガラス化・加温直後の膵島生存率はそれぞれ、50%と57% (新鮮対照は90%) で、アポトーシス関連遺伝子 (Bax/Bcl2) の発現量も変わらなかった。新鮮対照区の膵島におけるSI値 (グルコース応答性インスリン分泌能の指標) は6.7だったのに対して凍結区のそれは1.9、ガラス化区のそれは3.9であり、β細胞機能関連遺伝子の発現量は凍結区でのみ有意に減少した。このように、ラット膵島の超低温保存にはBicell凍結法よりもCryotopガラス化法の方が適していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ウシ卵核胞 (GV) 期、すなわち未成熟な卵丘卵母細胞複合体 (COC) のCryotopをデバイスとしたガラス化保存においては、加温・IVMFC後の胚盤胞までの発生率にとってガラス化保存に先立って卵丘細胞層をダウンサイズしておくことが有効であると見出し、Theriogenology誌 Vol.95, Pages 1-7 (2017) に原著論文として発表した。また、本結果を第57回日本卵子学会で発表した研究協力者は、学術奨励賞 (口演部門) 受賞の栄誉に輝いた。
ラット膵ランゲルハンス島 (膵島) の超低温保存に関する研究では、ES細胞などの各種培養細胞の保存に汎用されているBicell凍結法と、ウシCOCで有効性が実証されたCryotopガラス化法を直接比較したところ、インスリン分泌能を含むIn vitroのいくつかのパラメーターにおいてCryotopガラス化法の優越性を示した。この結果は、Cryobiology誌 Vol.73, Pages 376-382 (2016) に原著論文として発表した。
よって、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
ウシ卵核胞 (GV) 期、すなわち未成熟な卵丘卵母細胞複合体 (COC) のガラス化保存では、卵丘細胞層の存在自体を完全に取り払うことができない。これまでに達成できている30%を超える胚盤胞発生率はこの技術の成熟度を実用レベルにまで引き上げるものだが、まだ新鮮対照区に比較すると50~60%にまでその効率を下げている。ここが改善を目指すポイントとなり、IVM用の培養液に添加すべき生理活性物質を模索している。
ラット膵ランゲルハンス島 (膵島) のガラス化保存では、細胞内透過型凍害保護物質 (エチレングリコール+DMSO) での前処理 (3分間) を経てのガラス化保存液への晒し (1分間) という行程を含め、ウシGV-COCで採用してきたCryotopをデバイスとする方法論がうまく適用できた。課題としてはin vivoのパラメーター、すなわち糖尿病モデルラットへの移植を通して血糖値の正常化に移植膵島が資すると確認すること、ならびに一回のガラス化行程で処理可能な膵島数を増加させること (大容量ガラス化)、の2点を挙げる。
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