研究実績の概要 |
ウシ卵核胞期 (GV) 卵丘卵母細胞複合体 (COC)、ならびにラット膵ランゲルハンス島 (膵島) の超低温保存に関する研究を継続した。このうち、ラット膵島のガラス化保存に関するテーマにおいては、一回のガラス化行程で処理可能な膵島数を増加させることを目論み、論文発表 (Biopreservation and Biobanking誌、Yamanaka et al., 2017) に至る成果を得た。また共同研究成果として、論文1編 (Journal of Reproduction and Development誌、Hirabayashi et al., 2017) を発表した。
成果の主たる概要は、1辺1cmの三角形シート(ナイロンメッシュ製)を三角錐展開図状に折り込んだデバイスを作製し、一回のガラス化行程で最大10個程度の膵島しか処理できなかったクライオトップというデバイスの代わりに用いて、最大100個の膵島をガラス化保存できるようになったことである。ガラス化保存液に含まれる凍害保護物質 (CPA) の組成や前処理時間等は前年度にCryobiology誌に報告したものと同条件とした。個々の膵島をガラスキャピラリーによって移動させるのではなく、ナイロンメッシュデバイスの網目構造を利用して、搭載面の裏から前処理用CPA培地を吸引除去した後に新しいガラス化用CPA培地にデバイスごと移せることを特徴とする。加温後の生存率はクライオトップをデバイスとしたときの対照区の値と同等だったが、膵島をナイロンメッシュデバイスに50個、あるいは100個載せてガラス化・加温してもインスリン分泌能の指標であるStimulus Index (SI) 値が、膵島移植に供し可能なレベル (2.8-3.8) を保った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウシGV期COCのガラス化保存に関する研究テーマにおいては、前年度に大きな飛躍があったものの、本年度は学会発表・論文公表に至る成果を上げるには至らなかった。しかし、ラット膵島の超低温保存に関する研究テーマにおいては、大容量ガラス化保存用のナイロンメッシュデバイスの開発に成功し、一回のガラス化行程で最大10個程度の膵島しか処理できなかったクライオトップというデバイスの代わりに用いて、最大100個の膵島をガラス化保存できるようにした。この結果は、Cryopreservation Conference 2017という国内会議 (2017年11月、つくば) においてポスター発表し、Biopreservation & Biobanking誌 Vol.15, No.5, Page 457-462に原著論文 (Yamanaka et al., 2017) として発表した。また、ラットES細胞株樹立に関する共同研究成果として、雄性単為発生胚盤胞と雌性単為発生胚盤胞のそれぞれから半数体のES細胞株を樹立することに成功した。しかし、同株を半数体のまま維持するには、面倒なフローサイトメトリー・セルソーターを用いた精製工程が必要なこともわかった。この結果は、Journal of Reproduction & Development誌 Vol.63, No.6, Page 611-616に原著論文 (Hirabayashi et al., 2017) として発表した。
よって、「おおむね順調に進展している」と言える。
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