研究課題
研究機関におけるニホンウズラ(Coturnix japonica)の各種特異的系統が淘汰され,産業用のニホンウズラ以外の遺伝資源は激減している。一方,キジ目ナンベイウズラ科のコリンウズラ(Colinus verginianus)は米国において狩猟および肉利用のため数系統保有されているが実験動物としては確立されているとは言い難い。経済協力開発機構(OECD)は鳥類を指標にした生態系への影響に関するテストガイドラインの試験法として複数の種の使用が規定されており,ニホンウズラとともにコリンウズラの使用が推奨されている。本研究課題の目的は新旧両世界のウズラ類,特に新規系統造成中の白色系コリンウズラおよび食肉用に育種された大型系ニホンウズラ(ジャンボウズラ)を広くライフサイエンスのための実験動物として開発・確立することはもとより,発生工学研究用の実験動物として開発・確立することである。さらには鳥類感染症等の発生による遺伝資源の完全崩壊を回避できる体制を構築することが重要である。平成28年度は(1) 新旧両世界ウズラの生物学的特性を明らかにして実験動物化をするために,小規模研究室における飼育体制を確立し,クローズドコロニーの系統造成をして,広く研究者が使用できるようにした。 (2)キメラ作出研究,特に胚盤葉細胞移植によるドナーの形質発現を調べた。ジャンボウズラの胚盤葉細胞を産卵用の通常のサイズのニホンウズラ胚の胚盤葉に導入したキメラを育成したところ,導入細胞の形質が発現され,体重が重くなる傾向が観察された。(3)ニワトリの幹細胞因子がFGF2と協調して始原生殖細胞増殖を増殖させること,若齢と成体のニホンウズラ精巣細胞を分離して良好な生存性を得たことおよび鳥類特異的HSP25タンパク質が胚盤葉発生休止中の環境ストレス防御に関与することに関する共同研究をした。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通りニホンウズラにおいて生殖系列の保存と形質転換への実用化をめざして精原幹細胞の分離,特徴づけ,と培養に関する共同研究を実施した。若齢と成体のニホンウズラ精巣細胞を分離し,約90%の生存性を得た。培養により,精原幹細胞を得た。Z染色体上にあるアルビノ遺伝子による「劣性アルビノ形質」系統は色素沈着がほとんど無いところから胚や初生ヒナで容易に他系統と識別できる。ところが,生命力が弱いのが難点であるが,これを胚盤葉キメラ研究のレシピエントとしての有用性を検証し,低率(2.6%)ではあるが,キメラが作出できた。通常サイズのウズラと同一種であるが通常より体が大きく成長する食肉用系のジャンボウズラを用いて胚盤葉細胞キメラの作出を行った。ジャンボウズラの胚盤葉細胞を普通サイズのウズラ胚に導入したキメラでは,ヒナの体重増加が大きいことが観察されたことから,量的形質の関与が示唆された。新世界ウズラである白色系コリンウズラの白色羽装形質は交配実験により,常染色体上にある劣性遺伝子rWによって制御された非アルビノ形質であった。ここにこの遺伝子をrW(recessive white)と命名するとともに,この系統をrW (ressevive white) とした。旧世界ウズラである大型系ニホンウズラのうち系統造成中のドッテドホワイト羽装のウズラは,普通サイズのウズラで既報のfawn-2(Yf2)遺伝子によるものと推定され,常染色体上の優性遺伝子により制御されていた。この系統をJFN系統として系統造成をした。コリンウズラとニホンウズラにおいてそれぞれ種特異的なPCRプライマーを数種類デザインし両種で異なるサイズの増幅物が得られる実用的なものも作成した。以上の結果からおおむね順調に進展していると判断した。
平成28年度と同様の手法により,ニホンウズラあるいはコリンウズラのドナー由来生殖細胞からの個体復元を目指す。ニホンウズラとコリンウズラにおいてそれぞれの種内で系統が識別できるPCRプライマーを探索し,それによりドナーとレシピエントもゲノム識別ができるようにする。クローズドコロニー内での変異が大きくあり,識別できない場合は,可能な限り多くのキメラ候補の検定交配を実施する。可能であれば,それぞれのクローズドコロニーにおいて,識別できるDNAマーカーを選定し,それを指標にして遺伝的背景をそろえるようにする。生殖細胞キメラ候補のオスを選出して,生殖細胞キメラ候補及びドナー種のメスと検定交配をする。レシピエント本来の生殖細胞除去によりドナー配偶子の寄与率の向上が期待され,キメラ候補メスとの交配により直接個体復元が可能となる。このレシピエント本来の始原生殖細胞を除去する方法の効率化をはかる。レシピエント胚の始原生殖細胞を減少させる方法として,ブスルファン投与と軟X線照射の最適の条件を決定する。白色系コリンウズラ(rW系統)のF2世代の分離比を調べる。rWの雌雄は生殖器,羽装,などの外部形態からは識別できないので性判別はPCRで実施しているが,詳細な形態観察により簡便な雌雄識別法を開発する。ニホンウズラで確立された卵細胞質内精子注入法のさらなる効率化をはかり,コリンウズラにも適用できるかどうかを連携研究者と共同で実施する。成果は高い評価のある学術雑誌に投稿する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
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