研究課題
成体としてウズラ(ニホンウズラ,Coturnix japonica)の特異的系統を維持している研究機関が激減している。鳥インフルエンザがいったん発生すると産業用のウズラの流通・研究利用も制限される。一方,キジ目ナンベイウズラ科のコリンウズラ(Colinus virginianus)は米国において狩猟および肉利用のため数系統保有されているが実験動物としては確立されているとは言い難い。経済協力開発機構(OECD)は鳥類を指標にした生態系への影響に関するテストガイドラインの試験法として複数の種の使用を規定しており,ウズラとともにコリンウズラの使用が推奨されている。本研究課題の目的は新旧両世界のウズラ類,すなわちウズラおよびコリンウズラを広くライフサイエンスのための実験動物はもとより,発生工学研究用の実験動物として開発・確立することである。さらには鳥類感染症等の発生による遺伝資源の完全崩壊を回避できる体制を構築することが重要である。しかしながら鳥類の実験動物としてはニワトリの利用が主流であり,産業的にも重要である。そこで平成30年度は特にウズラ,コリンウズラ,ニワトリなどの鳥類の研究利用促進を念頭に置き(1)ニワトリおよびニホンウズラにおける卵細胞質内精子注入(ICSI)法の確立を目指した (北海道大学水島秀成助教らとの共同研究)。(2)コリンウズラの上部消化管,肝臓および膵臓を機能形態学に観察してニワトリと比較した。(3)内在の生殖細胞(精子系列)の増殖を阻害するブスルファンを皮下注射した黒色羽装系統(野生型羽装に対して優性)のオスウズラ精巣に2週間後野生型羽装系統の精原細胞を導入した。このウズラと野生型羽装のメスウズラとの交配によりドナー細胞由来のヘテロ型ウズラを産生した。この研究に関して実験計画と論文作成に関与した(ソウル大学Han教授らとの共同研究)。
2: おおむね順調に進展している
当初の目標の一つであった,通常サイズのウズラと同一種であるが海外で食肉用に育種された通常より体が大きく成長するジャンボウズラは系統造成が順調に進み,羽装を優性形質のフォーン(淡黄褐色)で固定し,コリンウズラは野生型羽装および白色羽装(常染色性劣性遺伝子rW, recessive whiteにより支配)系統を造成して 広島大学と名古屋大学に提供することができた。(1)世界的にも利用価値の高いニワトリでのICSIによる孵化のためにICSIと卵賦活化因子の解析を行った。鳥類の未受精卵へのICSIのためには,卵1つに付き母鳥1羽を犠牲にしなければいけないのが現状である。そこで大規模なニワトリおよびウズラの飼育施設を所有するソウル大学附属平昌牧場の動物を用いて国際共同研究を実施した。精子抽出物(SE)と射出精子1個を白色レグホーンまたは韓国在来ニワトリの排卵後2時間以内の卵細胞質に投与し,72時間の培養を行ったところ,78%が胚盤葉形成まで発生し,その内の20%が胚ステージまで到達した。また,ニワトリおよびニホンウズラにおいて効率よく顕微授精を実施するためにウズラの配偶子に発現するDNaseⅠの受精における機能を調べたところ,受精に関与しなかった精子核は精子由来のDNaseⅠで分解されることが観察された。(2) コリンウズラのソノウの食道接続部付近でのみ食道腺が見られ,腺胃粘膜上皮が単層円柱樹皮であり,筋胃の筋胃腺の分布が不規則であることが観察された。肝臓の小葉は不明瞭で肝細胞は不定形であり粘液多糖類やグリコーゲンに富む細胞は観察されなかった。膵臓は腹葉,背葉,脾葉の三葉に分かれ,グルカゴン分泌細胞とインスリン分泌細胞の集塊はそれぞれニワトリのA島とB島に相当すると考えられた。これらの特徴はニワトリと類似していると確認された。以上の結果からおおむね順調に進展していると判断した。
コリンウズラおよびウズラそのものの生物学的特性は明らかでない点が多いので,引き続き,比較生物学の立場から研究を継続する。ニワトリとの比較研究を継続しながら,実験動物として活用するためにコリンウズラ小腸における内分泌細胞の分類を光学及び電子顕微鏡レベルで実施して,基礎的生物学的データを集積する。具体的には,免疫組織化学法によりグルカゴン様ペプチド-1,ニューロテンシン,ソマトスタチン,膵ポリペプチド及びコレシストキニンを含有する細胞の分布を明らかにする。また,多重蛍光抗体法によりこれらホルモンの共存関係を明らかにする。透過型電子顕微鏡観察により,内分泌細胞が含む分泌顆粒の形態及び電子密度等から,細胞の分類を行うと共に,金粒子を指標にした免疫細胞化学法により分泌顆粒の形態と含有ホルモンの関係を解明する(学内の平松浩二教授との共同研究)。これまでの成果として,鳥類に特異な卵賦活化因子即ち,フォスオリパーゼCゼータ,クエン酸合成酵素およびアコニット酸ヒドラターゼを同定し,それらを活用することでウズラのICSI法によるヒナの孵化育成に成功を収めてきた。しかしながら,世界的にも利用価値の高いニワトリでの成功例がないため,ニワトリにおけるICSI法の試みと卵賦活化因子の解析を継続する。鳥類の顕微授精には不可欠と考えられるホスホリパーゼCゼータ,アコニット酸ヒドラターゼ,クエン酸合成酵素の顕微授精時の適正量の探索を続ける。鳥類の受精は複数の精子が卵内に侵入する。ウズラを用いたこれまでの研究で,卵内に侵入した複数の精子のほとんどが雄性前核へと変化するが,実際に雌性核と融合する雄性前核以外は分解される。その分子機構を明らかにするために,ウズラおよびニワトリの射出精子および排卵直後の未受精卵や受精卵の胚盤から蛋白質を抽出して抗DNaseⅠ抗体を用いたウエスタンブロッティング解析をする。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Journal of Poultry Science
巻: 55 ページ: 199-203
Asian Journal of Andrology
巻: 20 ページ: 1-3
10.4103/aja.aja_79_17
http://soar-rd.shinshu-u.ac.jp/profile/ja.WFfCPpkh.html