研究課題/領域番号 |
16K07993
|
研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
小林 正之 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (50211909)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | マウス / 初期発生 / 細胞分化 / ホメオタンパク質 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
1.研究代表者はマウス胚より,新規転写因子EGAM1ホメオタンパク質群を発見した。本研究の目的は,胚発生における当該タンパク質群の本質的な役割と標的遺伝子の全体像を解明し,胚発生や細胞機能を制御する新たな分子基盤を確立すること,である。特に,胎盤形成との関連に注目しており,子宮への胚着床の安定性とその後の流産との関連を追及するための研究基盤を確立する。平成29年度は以下に示した成果を得た。 2.当該タンパク質群による多能性の獲得機構について解析することにより,マウス胚の初期発生との関連を検証する:山中4因子によるマウスiPS細胞の誘導において,EGAM1NもしくはEGAM1Cは,マウスiPS細胞の作出における1次コロニーの誘導について,KLF4の機能を代替できる可能性が示された。これらの知見を応用し,ウシiPS細胞の樹立に向けた準備研究に着手した。 3.当該タンパク質群を個別に強制発現させたES細胞の分化特性を検証することにより,胎盤形成との関連を検証する:ES細胞は,胎盤形成に重要な転写因子を強制発現させない限り,胎盤幹細胞に分化転換できないことが知られている。CDX2の発現が大きく誘導された時に胎盤幹細胞の樹立培養を適用することにより,胎盤幹細胞に酷似した細胞コロニーが生じることを明らかにした。このことは,当該タンパク質群はマウス初期胚に含まれる,胎盤前駆細胞の成立と維持に関与することを示唆する。 4.当該タンパク質群を個別に強制発現させたES細胞と8細胞期胚との集合キメラ胚を作成し,これらのES細胞がキメラ胚のどの細胞種(胎仔前駆細胞・胎盤前駆細胞)に寄与するか検証する:RFPを組込んだ,EGAM1NもしくはEGAM1Cを強制発現させたES細胞をキメラ胚作成実験に供した。その結果,胚盤胞期まで発生した胚が認められた。しかし,胚盤胞への発生率は非常に低いことが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスiPS細胞の誘導技術を応用した研究により,EGAM1ホメオタンパク質群による多能性の獲得機構について重要な知見を得ることができた。EGAM1NもしくはEGAM1Cを強制発現させたES細胞の分化特性を検証することにより,胎盤形成との関連について,培養細胞レベルながら非常に重要な知見を得ることができた。国内外における研究の進展を考慮に入れ,ES細胞の分化特性に係る検証実験を優先的に実施した。従って,当初計画していた,EGAM1ホメオタンパク質群により発現量が変動する遺伝子群をDNAマイクロアレイ法により網羅的に同定し,遺伝子発現調節機構を解明する研究については,次年度以降に持ち越した。また,確率としては非常に低いながら,RFPを組込んだES細胞とマウス8細胞期胚によるキメラ胚を作成できたことは,次年度以降の研究計画に重要である。当初,遺伝子発現阻害法を使って当該タンパク質群の発現をノックダウンした胚を作製する実験を計画していたが,キメラ胚作成実験の準備に時間が必要であったため,次年度以降に持ち越した。所期の目標設定に照らしてみて,これらの進捗状況は適切である。
|
今後の研究の推進方策 |
1.EGAM1ホメオタンパク質群による多能性の獲得機構については,ウシiPS細胞の誘導に応用する予定である。 2.当該タンパク質群と胎盤形成との関連については,当該タンパク質群を強制発現させたES細胞から分化転換して得た胎盤幹細胞について,その細胞特性・分化特性を検証する予定である。これにより,胎盤前駆細胞の形成と当該タンパク質群の関連について,より,直接的な知見を得る。また,胎盤幹細胞はキメラマウス胚の胎盤に寄与することが報告されている。そこで,当該タンパク質群の強制発現により分化転換して得た胎盤幹細胞とマウス胚とのキメラ胚を作成し,代理母マウスに移植し,発生したキメラ胎仔の胎盤形成に寄与できるか検証する。これにより,分化転換して得た胎盤幹細胞の完成度について解明し,当該タンパク質群と胎盤形成の関連について知見を得る。 3.当該タンパク質群を個別に強制発現させたES細胞と8細胞期胚との集合キメラ胚実験は,来年度以降も引き続き継続する。以上に示した研究には,平成29年度から持ち越した研究費も充当する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国内外における研究の進展を考慮に入れ,ES細胞の分化特性に係る検証実験を優先的に実施した。従って,当初計画していた,EGAM1ホメオタンパク質群により発現量が変動する遺伝子群をDNAマイクロアレイ法により網羅的に同定し,遺伝子発現調節機構を解明する研究については,次年度以降に持ち越した。また,当初,遺伝子発現阻害法を使って当該タンパク質群の発現をノックダウンした胚を作製する実験を計画していたが,キメラ胚作成実験の準備に時間が必要であったため,次年度以降に持ち越した。これらの措置により,次年度使用額が生じた。今後の研究の推進方策に示した研究計画に対し,平成29年度から持ち越した研究費も充当する。
|