1. 研究代表者はマウス胚より,新規転写因子EGAM1ホメオタンパク質群を発見した。本研究の目的は,胚発生における当該タンパク質群の本質的な役割と標的遺伝子の全体像を解明し,胚発生や細胞機能を制御する新たな分子基盤を確立すること,である。特に,胎盤形成との関連に注目しており,子宮への胚着床の安定性とその後の流産との関連を追及するための研究基盤を確立する。令和元年度は以下に示した成果を得た。
2.当該タンパク質群による多能性の獲得機構について解析することにより,マウス胚の初期発生との関連を検証する:マウスiPS細胞の誘導における,当該タンパク質群の機能を詳細に解析する必要がある。そこで,従来より知られているTetシステムに加え,令和元年度は,Cumateシステムにより作出したマウスiPS細胞(CumiPS細胞)について,多能性マーカー遺伝子群のmRNA発現とタンパク質発現を精査した。その結果,マウスES細胞と区別できないほどの同一性を示すことを実証した。
3.当該タンパク質群を個別に強制発現させたES細胞の分化特性を検証することにより,胎盤形成との関連を検証する:ES細胞は,胎盤形成に重要な転写因子を強制発現させない限り,胎盤幹(TS)細胞に分化転換できないことが知られている。前年度までの研究成果により,EGAM1NもしくはEGAM1Cを強制発現させたES細胞からTS細胞に酷似した細胞(分化転換TS細胞)が得られている。令和元年度は,得られた分化転換TS細胞の性質について検証したところ,TS細胞のマーカー(複数)の発現が認められることを示した。これにより,当該タンパク質群と胎盤前駆細胞の成立と維持に係る関係性について,“直接的”とも言える強力な関係があることを実証することに成功した。また,TS細胞の細胞状態維持と増殖に必須な細胞増殖因子FGF4のタンパク質構造について,重要な知見をえることができた。また,査読付原著論文(国際)として発表した。
|