本研究では、雌の家畜で確立されつつあるニューロキニンB(NKB)による性腺機能賦活化技術を雄の家畜へ応用するための基礎的な知見を得て、受胎率の改善を目指すとともに製剤化に向けた開発を行うことを目的とした。本年度は、繁殖行動不全の雄ウシへNKB製剤を投与した際の精巣の機能や繁殖行動に及ぼす影響を検討した。 黒毛和種雄ウシ(2歳)で採精の訓練を始めるも擬牝台に乗らず射精をしない動物を供試した。事前に雄性ホルモンである血中テストステロン値を測定したところ低値で推移していた。NKBの投与には、昨年度効能を確認した単回投与でも効果が持続する新規作動薬を用いた。NKBの効果を調べるため、単回投与(1000 nmol)した際に採血をして血中テストステロン濃度、LH濃度を測定するとともに、採精や擬牝台への乗駕を試みた。これを毎週1回、8週間に渡り繰り返した。 その結果、投与前と比較して血中テストステロン濃度の上昇が安定して持続しないものの観察された。血中LH濃度に変化は見られなかった。投与期間中、擬牝台への乗駕行動は全く観察されなかったが、投与後に陰茎の勃起/伸長が見られ、少量の漿液/精液の射出とともに少量の活性を有する精子が観察された。 これらのことから、NKBの単回投与では繁殖行動不全を改善するまでには至らなかったが、NKBが繁殖中枢を刺激することで精巣の活動を高めることが示唆された。このことからNKBは雄の性腺機能賦活化にも応用できることが期待される。
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