研究課題/領域番号 |
16K08006
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
河原 岳志 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (30345764)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ダチョウ / 脂肪酸 / TLR10 / TLR2 |
研究実績の概要 |
研究代表者らはH28年度において抗炎症作用を持つとされるダチョウの脂質機能性に着目し、ヒト皮膚角化細胞における抗炎症作用を明らかにするためにマイクロアレイによる網羅的解析を行い、Toll様受容体(TLR)10の発現増強作用を見出すに至った。H29年度はその研究成果を受け、ダチョウ脂質中に含まれるTLR10発現増強成分を明らかにするため研究を実施した。 ダチョウ脂質中に含まれる主要脂肪酸成分であるオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、パルミトレイン酸を対象に、遊離型の脂肪酸ならびに単一脂肪酸で構成されるトリグリセリドのTLR10発現に及ぼす影響を評価した。ウシ血清アルブミンで各サンプルを可溶化させ、ヒト成人正常皮膚角化細胞(HEKa)の培養系に各サンプルを脂肪酸は0.37 M、トリグリセリドは0.12Mで添加し、TLR10の発現状況ならびに抗炎症作用の発現に関わるTLR1、TLR2、TLR6の発現に及ぼす影響について確認を行った。 検討の結果、今回検討を行った脂肪酸、トリグリセリドの全てにおいてTLR10発現量の有意な上昇が確認された。全体の傾向として遊離型の脂肪酸の方が、トリグリセリド型と比較してTLR10誘導能が強いことが明らかとなった。脂肪酸種の比較においては、飽和脂肪酸であるステアリン酸とパルミチン酸、一価不飽和脂肪酸であるパルミトレイン酸であったが、ステアリン酸とパルミチン酸は、TLR10がTLR2を介した抗炎症作用を発揮するうえで競合するTLR1も同時に誘導してしまうことが明らかとなった。結論として、1価不飽和脂肪酸とくにパルミトレインさんの遊離型が多いほど、競合分子を誘導させることなく効率的にTLR10発現が誘導され、皮膚を介した感染性炎症に対して有効と思われるTLR2による炎症性応答を抑制できる可能性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではダチョウ脂質成分の抗炎症作用につながる新規機能性の探索を目的としている。昨年度から継続的に実施してきた検討によって、これまで全く知られていなかった脂肪酸やトリグリセリドのTLR10発現増強作用を見出すことに成功した。 TLR10はヒトがもつTLRの中で唯一リガンドが明らかとなっていないオーファン受容体である。そのため生体における役割は完全に明らかにされていないが、近年の報告でTLR10がTLR2誘導性の炎症性シグナル応答を抑制する作用が報告され、抑制性受容体としての作用に注目が集まってきている。皮膚における炎症の主要な要因の一つとして、皮膚バリアから侵入した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)やアクネ菌(Propionibacterium acnes)などの皮膚常在菌の存在が挙げられ、これらの細菌はTLR2を介した免疫応答を引き起こすことが知られている。今回、我々が見出した脂質の機能性は、これらに対し抑制作用をもつことを示している可能性が高い。その点において、新規機能性探索としての進捗はおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
炎症抑制因子としてスクリーニングしてきたTLR10はマウスでは機能していない分子であり、当初の計画にあるマウスでのノックダウン実証試験には適さない。そのため、生体モデルの代替として実績のあるヒトの3D皮膚モデル系での抗炎症試験系での実証を行い、目的を達成したいと考えている。 活性を検討する成分としては、TLR10誘導成分として有効な脂肪酸ならびにトリグリセリドの種類が明らかになってきているため、これらを個別に可溶化した状態で皮膚角化細胞に作用させ、TLR2、TLR1/TLR2、TLR2/TLR6リガンドでの炎症誘導に及ぼす影響を評価する。また脂肪酸やトリグリセリドによりTLR10発現が増強されるメカニズムを解析するため、これらがTLRリガンドのアゴニストとしての部分的な作用を持つ可能性を検討するほか、遊離脂肪酸をリガンドとするペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR)が発現誘導に関与する可能性を検証していきたいと考えている。
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