経口投与されたラクトフェリンがT細胞の分化を制御することで、炎症抑制効果を発揮するか検討するため、Ballb/Cマウスの脾臓から抽出された未分化T細胞をSCIDマウスの腹腔内に移入することで、実験的に大腸炎を誘発させた。このSCIDマウスにラクトフェリンを5週間にわたって経口投与したが、炎症性サイトカインの産生抑制などは観察されず、この実験系では経口投与されたラクトフェリンの炎症抑制効果を明らかにすることはできなかった。また、T細胞におけるラクトフェリン受容体を明らかにする目的で、ヒト株化T細胞であるJurkat-Tをモデルに用い、細胞をラクトフェリンで刺激した場合のSTAT3経路とPI-3K/Akt経路の活性化がケモカイン受容体の一種であるCXCR4の活性化に依存しているか検討した。CXCR4の阻害剤であるAMD3100により、STAT3経路の活性化は部分的に阻害されたが、PI-3L/Akt経路の活性化は阻害されなかった。また、CXCR4に内在性のリガンドであるSDF-1(Stromal derived factor-1)が結合したときに観察されるCXCR4のユビキチン化、チロシンリン酸化、二量体化は、ラクトフェリン刺激では認められなかった。一方、ヒト単球由来の株化細胞をホルボールエステルで処理した細胞においては、ラクトフェリン刺激によるPI-3L/Akt経路の活性化はAMD3100処理により阻害された。また、この細胞ではラクトフェリン刺激によりCXCR4のチロシンリン酸化が亢進すると共に、CXCR4の代謝回転速度の上昇が観察された。これらの結果から、T細胞においてはラクトフェリンによるPI-3K/Akt経路の活性化はCXCR4以外の受容体に担われ、角化細胞や腸管上皮細胞などとは全く異なることが明らかとなった。
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