研究課題
インフルエンザウイルスは広い宿主域を持つ人獣共通感染症である。現在、M2イオンチャネル阻害剤とNA阻害剤という二つの抗ウイルス薬が認可されているが、耐性ウイルス出現の問題があるため、新規抗インフルエンザ薬の開発が期待されている。従来品とは異なる戦略に基づいた抗ウイルス薬開発のためには、本ウイルスの増殖機構を詳細に解析する必要がある。本研究では、ヌクレオプロテイン(NP)に着目し、1) NPの保存領域のウイルス増殖における役割を解析する。また、2) NPと相互作用する宿主蛋白質が、ウイルス増殖においてどのような役割を果たしているかを解析する。さらに1)と2)で得られた知見を基にして、3) 抗ウイルス薬の標的とするべき因子を決定することを目指す。インフルエンザウイルスは、細胞に感染すると、宿主蛋白質を利用して複製・増殖する。インフルエンザウイルスのゲノムRNAは、感染した細胞の核内でNPとウイルスポリメラーゼ蛋白質の複合体であるvRNPを 形成する。今年度はNPと会合する宿主蛋白質として同定された因子Xに着目して、解析を進めた。Xに対するsiRNAを導入したヒト由来細胞に、インフルエンザウイルスを感染させたところ、ウイルスタイターが減少していることが分かった。さらにヒト呼吸器由来細胞を用いて、因子Xのノックアウト細胞を作成し、ウイルス増殖効率を調べたところ、野生株の細胞に比べて、ウイルス増殖効率が低下 していることが示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、1) NPの保存領域がウイルス増殖においてどのような役割を果たしているか、および、 2) NPと相互作用する宿主蛋白質が、ウイルス増殖においてどのような役割を果たしているかを解析する。さらに1)と2)で得られた知見を基にして、3) 抗ウイルス薬の標的とするべき因子を決定することを目的とする。平成28年度は、2)について、インフルエンザウイルスのvRNPと相互作用する宿主蛋白質CLUHが、ウイルス感染において果たす役割を調べた。その結果、クロマチン領域において新たに作られたvRNPは、核スペックルを通過した後に、核外輸送複合体が形成される領域に到達すること、またその移動にCLUHが必要であることが明らかとなった。また平成29年度はNPと会合する宿主因子Xについて、解析を進め、因子Xのノックアウト細胞で、ウイルス増殖効率が著しく低下することが分かった。以上の結果が得られたことから、本研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
今後も引き続き、NPで保存されているアミノ酸のウイルス増殖における役割や、NPと相互作用する宿主因子の機能を解明することによって、インフルエンザウイルスの増殖機構についての理解を深める。NPで保存されているアミノ酸のウイルス増殖における役割は調べるために、ウイルス増殖サイクルの初期から後期まで、各ステップを調べるアッセイ系を用いて、NPで保存されているアミノ酸が関与するステップを同定する。また、平成29年度に同定したNPと相互作用する宿主因子Xについて、より詳細な解析を行うことによって、それらの宿主因子のウイルス増殖における役割を明らかにする。さらに、抗ウイルス薬の標的とするべき因子を決定する。
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