研究課題
鳥インフルエンザウイルスがどのように変化したらヒトの上気道細胞で効率よく増殖するようになるのか、その詳細な分子機構は未だ明らかにされていない。本研究では、鳥ウイルス蛋白質にどのようなアミノ酸変異が生じれば、そのウイルスがヒト上気道の上皮細胞で効率良く増殖するようになるのかを解析した。市販のヒト気管上皮細胞をin vivoのヒト気道と同様の形態になるよう、分化誘導剤存在下、気相―液相境界面で1ヶ月から2ヶ月間培養した。鳥ウイルスは、日本のカモから分離された低病原性H7N9鳥ウイルス[A/duck/Gunma/466/2011 (H7N9)]を用いた。また、コントロールとして2009年にパンデミックを起こしたウイルス[A/California/04/2009 (H1N1pdm)]を用いた。分化させたヒト気道細胞にウイルスを接種した後、ヒトの鼻腔内の温度である33℃で4日間培養し、頂端側(apical)に放出されたウイルスを経時的に採取して、その感染価をプラック法で測定した。感染後24、48、72、96時間目におけるH7N9鳥ウイルスの感染価は、2009年のH1N1ウイルスと比較して、いずれの時間においても10分の1から100分1程度低かった。感染後4日目に回収した低病原性H7N9鳥ウイルスの6種類の遺伝子(PB2、PB1、PA、NP、M、NS)について塩基配列を決定し、ウイルス蛋白質のアミノ酸配列を推定した。感染前の元のウイルスの配列と比較したところ、3種類の遺伝子(PB2、M、NS)にアミノ酸変異が生じていることがわかった。今後は、残りの2種類の遺伝子(HA、NA)について、アミノ酸変異が生じているのか否かを調べる予定である。
2: おおむね順調に進展している
ヒト気道から単離された上皮細胞を分化誘導剤存在下でトランスウェル膜を用いた気相―液相境界面で培養することで、in vivoのヒト気道と同様の形態を示すヒト気道上皮細胞を作出した。平成28年度は、この分化細胞で日本のカモから分離された低病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスが効率よく増殖するのかどうかを調べた。低病原性H7N9鳥ウイルスは2009年のパンデミックウイルスと比較して増殖速度は顕著に遅いながらもヒト気道上皮細胞で増殖することを確認した。また、分化細胞で培養したH7N9鳥ウイルスは、その増殖過程で幾つかのウイルスタンパク質にアミノ酸変異が生じていることがわかった。このように当該年度において、鳥ウイルスのヒト気道粘膜上皮細胞での増殖効率を高める可能性のあるアミノ酸変異を幾つか同定することに成功した。
引き続き、低病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスを分化ヒト気道上皮細胞で培養し、どのようなアミノ酸変異が生じるのかを調べる。生じたアミノ酸変化が低病原性H7N9鳥ウイルスのヒト気道細胞での効率のよい増殖にとって重要であるか否かを検証するために、個々のアミノ酸変異を導入したウイルスをリバースジェネティクス法で作出し、変異鳥ウイルスの分化ヒト気道細胞における増殖能を調べる。分化細胞での増殖効率を高めたアミノ酸変異がウイルス蛋白質の性状・機能に、どのような影響を与えるのかを検討する。HAに変異が生じていた場合は、その変異がHAのレセプター特異性に影響するのかどうかを調べる。ウイルスのRNAポリメラーゼ複合体 (PB2、PB1、PA)および NPに変異が生じていた場合は、その変異が鼻腔温度条件下(33℃)下での転写活性の増強に寄与するのかどうかを調べる。それ以外のウイルス蛋白質に生じた変異についても解析する予定である。
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Scientific Reports
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Nature Microbiology
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