研究課題/領域番号 |
16K08017
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今井 正樹 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (30333363)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鳥インフルエンザウイルス / ヒト気道上皮細胞 |
研究実績の概要 |
鳥インフルエンザウイルスがどのように変化したらヒトの上気道細胞で効率よく増殖するようになるのか、その詳細な分子機構は未だ明らかにされていない。2016年に中国において高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスのヒト感染例が初めて確認された。本年度は、この高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスがヒト上気道細胞において効率よく増殖できるのかどうかを調べた。 市販のヒト気管上皮細胞をin vivoのヒト気道と同様の形態になるよう、分化誘導剤存在下、気相―液相境界面で1ヶ月間培養した。高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスは、2016年に中国の患者から分離されたウイルス[A/Guangdong/17SF003/2016]を用いた。また、コントロールとして2009年にパンデミックを起こしたウイルス[A/California/04/2009 (H1N1pdm)]を用いた。分化させたヒト気道細胞にウイルスを接種した後、ヒトの鼻腔内の温度である33℃で4日間培養し、頂端側(apical)に放出されたウイルスを経時的に採取して、その感染価をプラック法で測定した。感染後48、72、96時間目における高病原性H7N9鳥ウイルスの感染価は、2009年のH1N1ウイルスと比較して、いずれの時間においても10分の1から100分1程度低かったものの、感染後72、96時間目において比較的高い感染価が検出された。このように高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスは、比較的低い温度でもヒト上気道細胞において効率よく増えることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年2月、世界保健機関(WHO)は中国において、高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスの感染者が2名発生したと発表した。しかし、この高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスの哺乳類に対する病原性・増殖性は明らかにされていなかった。高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスの性状解明は、今後のインフルエンザ対策を遂行する上で、緊急に取り組まなければならない課題である。そこで平成29年度は、2016年に中国の患者から分離された高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスのヒト気道上皮細胞における増殖力を解析した。高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスは、2009年のパンデミックウイルスと比較して増殖速度は遅いながらもヒト気道上皮細胞で効率よく増殖できることが分かった。このように当該年度において、高病原性H7N9鳥ウイルスのヒト気道上皮細胞における増殖性を調べることで、そのパンデミックポテンシャルの一端を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度において、ヒト気道上皮細胞で培養した低病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスの遺伝子性状を解析した。6種類の遺伝子(PB2、PB1、PA、NP、M、NS)について塩基配列を決定し、ウイルス蛋白質のアミノ酸配列を推定したところ、3種類の遺伝子(PB2、M、NS)にアミノ酸変異が生じていることがわかった。来年度は、残りの2種類の遺伝子(HA、NA)について、アミノ酸変異が生じているのか否かを調べる。同定されたアミノ酸変異がH7N9鳥ウイルスのヒト気道細胞での効率のよい増殖にとって重要であるかどうかを検証するために、個々のアミノ酸変異を導入したウイルスを人工的に作出し、その増殖能を解析する予定である。 中国ではA/Guangdong/17SF003/2016(H7N9)株とは遺伝的に異なる株が多数分離されている。このことは性状の異なる高病原性H7N9鳥ウイルスが中国において混在して流行している可能性を示している。来年度は、A/Guangdong/17SF003/2016(H7N9)株とは遺伝的に異なる高病原性H7N9鳥ウイルス株について、ヒト気道上皮細胞における増殖性を解析する。
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