鳥インフルエンザウイルスがどのように変化したらヒトの上気道細胞で効率よく増殖するようになるのか、その詳細な分子機構は未だ明らかにされていない。本研究では、鳥ウイルス蛋白質にどのようなアミノ酸変異が生じれば、そのウイルスがヒト上気道細胞で効率良く増殖するようになるのかを解析した。 平成28年度において、ヒト気道上皮細胞で培養した低病原性H7N9鳥ウイルス[A/duck/Gunma/466/2011 (H7N9)]の遺伝子性状を解析した。6種類の遺伝子(PB2、PB1、PA、NP、M、NS)について塩基配列を決定し、感染前の元のウイルスの配列と比較したところ、3種類のウイルス蛋白質(PB2、M、NS)にアミノ酸変異が生じていることがわかった。今年度は残りの2種類の遺伝子(HA、NA)について解析した。その結果、HAとNA蛋白質にアミノ酸変異が生じていることがわかった。興味深いことに、分化ヒト気道上皮細胞で増やしたA/duck/Gunma/466/2011 株は、NA蛋白質のC末端側191残基が欠損していることがわかった。 一方、中国で発生した高病原性H7N9鳥ウイルスの性状を明らかにする目的で、平成29年度は2016年に中国患者から分離された高病原性H7N9鳥ウイルス[A/Guangdong/17SF003/2016(H7N9)]の増殖性状を解析し、同株がヒト気道上皮細胞で効率よく増殖できることを明らかにした。しかしながら、中国ではA/Guangdong/17SF003/2016(H7N9)株とは遺伝的に異なる株が多数分離されている。このことは性状の異なる高病原性H7N9鳥ウイルスが中国において混在して流行している可能性を示している。そこで今年度はA/Guangdong/17SF003/2016(H7N9)株とは遺伝的に異なる2017年に患者から分離された高病原性H7N9鳥ウイルスの増殖性を解析した。その結果、同ヒト分離株は、ヒトの鼻腔内の温度である33℃でもヒト気道上皮細胞において効率よく増殖することがわかった。
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