研究課題/領域番号 |
16K08019
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
笛吹 達史 鳥取大学, 農学部, 准教授 (80508482)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | インフルエンザウイルス / ニワトリ / 気管 / 適応 / 野生水禽 / 増殖性 |
研究実績の概要 |
H5亜型やH7亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスをはじめ、H9亜型やH6亜型の低病原性ウイルスによる呼吸器感染症が国内外のニワトリで流行し、産業上と公衆衛生上の問題となっている。本研究の目標は、鳥インフルエンザ制圧に向けて、野生水禽由来インフルエンザウイルスがニワトリ上部気道に適応する機序を明らかにすることである。 H28年度は、ニワトリ上部気道における感染性をシンプルに評価する手段として、鶏胚気管リングのex vivo器官培養法を構築し、この鶏胚気管培養を用いてインフルエンザウイルス野鳥分離株の増殖性を解析した。はじめに、鶏胚より作製した気管リングを一定期間維持できる培養条件について検討した。また、レクチン染色を実施し、鶏胚気管リングの気管上皮に鳥型インフルエンザウイルスレセプターと考えられているα2-3結合シアル酸糖鎖が存在することを確認した。ただし、人型ウイルスレセプターのα2-6結合シアル酸も存在した。この鶏胚気管リングに、ニワトリ分離株(陽性対照株、H9亜型)を接種したところ、培養上清中のウイルス力価は上昇し、ブタ分離株(陰性対照株、H3亜型)ではウイルス力価が低いままであったことから、少なくともこの培養法でニワトリ適応株が増殖可能であると判断し、鶏胚気管リングのex vivo器官培養法の構築に至った。 鶏胚気管培養法を用いて、H1亜型からH13亜型(H12亜型を除く)までの野生水禽分離株1株ずつの増殖性を検討したところ、予想に反して多くの株でニワトリ分離株と同等のウイルス増殖が認められた。気管上皮の線毛運動障害は軽度であったが、よく増殖したウイルスの中には強い障害を示すものもあった。 冬季に行った野生水禽糞便からのウイルス分離調査では、カモ糞便から高病原性H5N6亜型ウイルスを分離した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の実施計画として、鶏胚気管の器官培養法を構築し、これを用いて複数の野生水禽分離株の増殖性解析を実施できた。現在、H1~13亜型の野生水禽分離株(H12亜型除く)1株ずつの実施にとどまっているが、今後、株数を増やして実施する計画である。 予想に反して、野生水禽分離株の多くがはじめから鶏胚気管で高い増殖性を示したが、低い増殖性を示す株もあり、継代によるウイルス増殖性の変化と遺伝子変異の解析に用いる候補株を確保できた。追加の株の実施により、さらにいくつかの継代候補株が得られる見込みである。 冬季に実施した野生水禽糞便調査では、高病原性ウイルスが分離された。その対応のため、本研究を一時的に中断することになったが、今後、高病原性株の気管培養での増殖性についても評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
鶏胚気管培養での増殖性について、未実施のH12亜型ウイルスを含む野生水禽分離株を追加して検討する。次に、増殖性の低い野性水禽分離株を選択し、鶏胚気管培養で継代することで高い増殖性を示す継代株の作出を試みる。これらの継代前後において、ウイルス遺伝子の変異を検索し、増殖性変化との関連について考察する。最終的には、継代前後で増殖性が変化したウイルスを用いてニワトリへの経鼻接種試験を実施し、気管培養での増殖性と、実際のニワトリへの感染性との相関の検証までを実施する。 すでにニワトリで流行が認められているHA亜型のウイルスについては、ニワトリへの感染性獲得機序の解明、ニワトリでの流行が認められていない亜型のウイルスについては、今後の流行リスクについての検討としての意義がある。 また、ニワトリへの感染性との比較という点で、ニワトリ上部気道環境により近い器官培養法として、孵化後の(外気呼吸を開始した後の)ニワトリ気管を用いた器官培養について必要に応じて検討することとなる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の冬季に、国内野鳥より高病原性鳥インフルエンザウイルスが分離され、家禽で高病原性鳥インフルエンザが発生したことで、死亡野鳥等の確定検査や発生農場における疫学調査対応のため、本研究に関連した作業を一時的に中断することとなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
本研究課題では、鶏胚気管培養における増殖性を、できるだけ多くの野生水禽分離株を用いて検討する予定であったが、現在までに10株程度にとどまっている。しかしながら、すでに鶏胚気管培養法は構築できていることから、今後、追加の株を用いて同様の増殖性解析を実施していく予定である。
|