自然宿主である野生水禽が保有する鳥インフルエンザウイルス(AIV)は、直接ニワトリには感染しにくいと考えられている。野生水禽からニワトリにAIVが定着する過程でウイルス側に適応変異が起こっていると考えられるが、その詳細は不明である。本研究では、野生水禽由来AIVがニワトリ上部気道における感染性を獲得する機序を明らかにすることを目標とした。 はじめに鶏胚気管リングを用いた気管器官培養法(TOC)を構築し、H1亜型からH13亜型までのAIV野鳥分離株の鶏胚TOCにおける増殖性を解析したところ、予想に反して多くの株が鶏分離株に近い増殖性を示した。一方、鶏胚TOCで低増殖性を示した一部の株を鶏胚あるいは5日齢鶏TOCで連続継代したところ、増殖性の増加が認められた。 鶏胚TOCにおける増殖性増加が、鶏への感染性獲得に寄与するか評価するため、H9N2亜型ウイルス鶏胚TOC継代株を用いて鶏への気管内投与実験を行った。AIV野鳥分離株およびその鶏胚TOC継代株を接種後、ほぼ全ての鶏において咽喉頭スワブからウイルスが分離されず、また抗体応答も認めなかったことから、鶏への感染性獲得には至らなかったことが示唆された。 最終年度では、これまで鶏胚または5日齢鶏TOCで連続継代したH7亜型ウイルス1株、H9亜型ウイルス2株、H12亜型ウイルス1株の塩基配列を決定し、遺伝子(推定アミノ酸)レベルでの変化について比較検討した。共通する特定部位の変異は認めなかったが、継代株全てで、NP蛋白質にアミノ酸変異が認められた。 野生水禽由来AIVの鶏気管上皮における増殖性獲得にNP蛋白質が関与することが示唆されたが、鶏への感染性獲得に至らなかったことから、AIVの鶏への適応には、気管リング培養では再現されない何らかの宿主因子に適応するためのさらなる変異の蓄積を要する可能性が考えられた。
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