研究課題
家畜寄生原虫の運動性や宿主細胞侵入性はその生存にとって必須の機能であり、宿主への病原性とも密接なつながりを持つ。バベシア症はアピコンプレクサ門バベシア属原虫による家畜の寄生虫病であり、マダニによって媒介される。特にウシのバベシア症は熱帯地域から日本を含む温帯地域に至るまで広く分布しており、畜産業に多大な経済的被害をもたらしている。バベシア原虫はウシ体内では赤血球内に寄生し、発熱、貧血、黄疸や血色素尿等の症状を引き起し、時に宿主を死に至らしめる。なかでもバベシア・ボビス(Babesia bovis)は病原性が高いことから、ピロプラズマ病として家畜伝染病に指定されているが、その赤血球寄生メカニズムの解明は進んでいない。本研究はB. bovisを対象とし、申請者が報告した赤血球寄生ステージバベシア原虫の滑走運動の分子機序を明らかにすることで、原虫の増殖を抑制する新たな作用機点を見出すことを目的としている。2017年度はTRAP遺伝子や、Coronin遺伝子のノックアウトを試みた結果、TRAP遺伝子の1つについてノックアウト原虫が得られず、原虫の生存に重要な役割を果たすことが示唆された。また、このTRAPタンパク質について、Mycタグを付加した融合タンパク質を過発現する原虫を作製し、同分子が原虫のアピカルエンドに局在することを確認した。現在、TRAPタンパク質の誘導型ノックダウンシステムの構築を試みている所である。また、以前作製した細胞内H2O2を検出する蛍光プローブHyperを発現する原虫を用い、細胞内酸化ストレスを可視化した。その結果、赤血球内メロゾイトのみならず滑走運動中のバベシア原虫でもH2O2が常時存在する事、またその主な発生源は原虫のミトコンドリアであることが明らかとなった。
3: やや遅れている
TRAP遺伝子の1つについてノックアウト原虫が得られない事が明らかとなり、またその分子の局在も確認されたため研究は前進している。しかし、遺伝子ノックアウトによる表現型の解析や滑走運動に関わる分子の同定までは到達できず、研究はやや遅れている。
バベシア原虫において遺伝子の誘導型ノックダウンシステムを開発する。その上で、遺伝子のノックアウトが成功しなかったTRAP遺伝子についてノックダウン原虫を作製し、その表現型について解析を行う。得られた表現型が原虫の滑走運動の低下であれば、さらにその分子と相互作用する分子を免疫沈降法と質量分析により同定する。
原虫の滑走運動に関わる遺伝子の同定まで実験が進まず、研究が遅れているため次年度使用額が生じた。2018年度は、遺伝子の誘導型ノックダウンシステムを開発し、2017年度にノックアウトできなかったTRAP遺伝子について滑走運動に関わる事を明らかとしたうえで、その分子と相互作用する分子を免疫沈降法と質量分析により同定する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
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