家畜寄生原虫の運動性や宿主細胞侵入性はその生存にとって必須の機能であり、宿主への病原性とも密接なつながりを持つ。バベシア症はアピコンプレクサ門バベシア属原虫による家畜の寄生虫病であり、マダニによって媒介される。特にウシのバベシア症は熱帯地域から日本を含む温帯地域に至るまで広く分布しており、畜産業に多大な経済的被害をもたらしている。バベシア原虫はウシ体内では赤血球内に寄生し、発熱、貧血、黄疸や血色素尿等の症状を引き起し、時に宿主を死に至らしめる。なかでもバベシア・ボビス(Babesia bovis)は病原性が高いことから、ピロプラズマ病として家畜伝染病に指定されているが、その赤血球寄生メカニズムの解明は進んでいない。本研究はB. bovisを対象とし、研究代表者が報告した赤血球寄生ステージバベシア原虫の滑走運動の分子機序を明らかにすることで、原虫の増殖を抑制する新たな作用機点を見出すことを目的としている。 これまでに私たちはTRAPファミリー遺伝子のシングルノックアウト原虫を作製し、その1つについてノックアウト原虫が得られないことを明らかとした。そこで、ノックアウト原虫が得られなかったTRAP遺伝子の機能解析を行うため、glmSを使用した遺伝子の誘導型ノックダウン法を開発した。最終年度は作出した誘導型遺伝子ノックダウン原虫の表現型を解析し、原虫の増殖が有意に減少していることを明らかにした。
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