毎年、ノロウイルスによる感染性胃腸炎は年齢を問わず爆発的な流行が報告されている。現在、米国を中心に、ノロウイルスに対する予防薬および治療薬の開発研究が実施されているが、実用化するに至っていない。ヒトと接触する機会が多い犬や猫でも、ノロウイルスによる感染性胃腸炎が確認されている。現在、イヌノロウイルス(遺伝子型GVI)がヒトへ感染する可能性については複数の報告例があるものの、ネコノロウイルスがヒトへ感染する可能性を示した報告は無い。この理由として、人への感染性が疑われる遺伝子型GVIノロウイルスが猫に存在しないことが挙げられる。このような状況の中、我々は野外猫から世界で初めて遺伝子型GVIノロウイルスの検出に成功した。本研究で我々はGVIネコノロウイルスがネコに対して病原性を有すること再確認するとともに、同一ウイルス株を再接種した実験において、同一株の再感染が生じることを明らかにした。また、ヒトノロウイルスの遺伝子群GIVと遺伝子学的に類似するGIVネコノロウイルスについてもネコに対する病原性が存在する可能性を確認した。さらに、ネコノロウイルスがヒトノロウイルスの検査系で検出されることから、ヒトノロウイルスとネコノロウイルスは遺伝子および構造が類似している可能性が考えられた。これを踏まえて、ネコおよびイヌの糞便を採取して、伴侶動物にヒトノロウイルス感染が生じているか否かを調査した。しかし、ヒトノロウイルスに感染したネコおよびイヌを発見することは出来なかった。今回、ネコノロウイルスがヒトに感染し得る明確なエビデンスを得ることは出来なかった。しかし、ネコノロウイルスとヒトノロウイルスが構造上類似する点が存在することを踏まえると、今後も注意深く観察する必要がある。
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