研究課題/領域番号 |
16K08028
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
岡田 宗善 北里大学, 獣医学部, 准教授 (30453509)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 循環器・高血圧 / カンスタチン / 心筋梗塞 / 心肥大 / 筋線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
本研究ではIV型コラーゲンα2鎖分解産物カンスタチンの病態生理的役割を解明するために、心臓組織構成細胞や心疾患モデルを用いて検討を行い、現在までに以下のような研究成果が得られた。 (A)ラット心筋梗塞由来筋線維芽細胞機能に及ぼすカンスタチンの影響:左冠動脈前下行枝を結紮することにより心筋梗塞モデルラットを作成し、術後2週目の梗塞領域から筋線維芽細胞を単離培養し、実験に用いた。カンスタチンはこの筋線維芽細胞に対しAktのリン酸化を介して増殖を促進すること、matrix metalloproteinase (MMP)-2及びMMP-9分泌を促進することや、cyclooxygenase (COX)-2発現の亢進を介して収縮を減弱化することが明らかになった。 (B)ラット心筋梗塞モデルにおけるカンスタチン発現量の変化:心筋梗塞モデルラットを作成し、術後2週間の梗塞領域と偽手術群の正常左心室組織のカンスタチン発現を比較した。カンスタチンは正常左心室組織では高発現しており、心筋梗塞領域においては顕著に減少することが明らかになった。 (C)ラット心筋芽細胞株H9c2細胞における低酸素誘導性細胞死に対するカンスタチンの保護作用:カンスタチンは低酸素暴露により誘導したH9c2ラット心筋芽細胞のアポトーシス(生細胞数の減少やcleaved caspase-3発現の増加)を抑制した。またカンスタチンは低酸素条件下で接着斑へと移動するintegrinに作用することでfocal adhesion kinase (FAK)/Akt経路を活性化して細胞保護作用を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は、研究の目的に沿って以下(A)~(C)の研究計画を実施した。 (A)ラット心筋梗塞由来筋線維芽細胞機能に及ぼすカンスタチンの影響:当初の予定どおり心筋梗塞モデルラット由来の筋線維芽細胞において、増殖促進作用、MMPs分泌促進作用や収縮減弱作用などカンスタチンの様々な生理活性を明らかにした。さらにそれらの機能調節因子としてAktやCOX-2を明らかにするなど、当初の計画以上に研究が進展している。 (B)ラット心筋梗塞モデルにおけるカンスタチン発現量の変化:カンスタチンが正常左心室組織で高発現しており、心筋梗塞領域において顕著に減少することを明らかにし、当初の計画に先んじて発現調節機構の解明と発現抑制実験のための基礎的なデータを得た。 (C)ラット心筋芽細胞株H9c2細胞における低酸素誘導性細胞死に対するカンスタチンの保護作用:当初の予定どおりカンスタチンが低酸素誘導性細胞死に対して保護作用を示すことを明らかにした。さらにこの保護作用がintegrin/FAK/Akt経路を介することを明らかにするなど当初の計画以上に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度において得られた結果をもとに、平成29年度では(A)カンスタチンによる細胞機能調節機構についてより詳細に検討するとともに、(B)心臓構成細胞や心筋梗塞モデルにおけるカンスタチン発現調節機構の解明、さらに(C)摘出心を用いたカンスタチン発現抑制実験を行う。 (A)H9c2細胞においてintegrin/FAK/Akt経路を活性化し細胞保護作用を示すことが明らかになったが、筋線維芽細胞におけるMMPsとCOX-2発現調節機構などカンスタチンの詳細な細胞機能調節機構は未だ不明である。そこで細胞内シグナル調節因子のひとつカルシウムイオンに着目し、パッチクランプ法や蛍光プローブを用いて心筋細胞、心線維芽細胞や筋線維芽細胞などの心臓構成細胞の細胞内カルシウムイオン動態に及ぼすカンスタチンの影響について検討する。 (B)心筋細胞、心線維芽細胞や筋線維芽細胞などの心臓構成細胞、もしくはカンスタチンを高発現する心室組織サンプルにMMPsやカテプシン、エラスターゼなどのプロテアーゼを処置した時のカンスタチン発現の変化についてWestern blot法を用いて検討する。また心筋梗塞モデルラットの梗塞領域におけるカンスタチンおよびプロテアーゼの発現動態について、Western blot法や免疫組織化学染色を用いて経時的に検討する。 (C)siRNA投与によりカンスタチン(IV型コラーゲンα2鎖遺伝子)のノックダウンを行ったラットの心臓を摘出し、ランゲンドルフ灌流装置に設置後、左冠動脈前下行枝を結紮することで虚血ストレスを加える。そして虚血による心筋障害の程度をcontrol siRNA投与群と比較検討する。 なお得られた成果は積極的に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度において使用動物数の増加による物品費の増加が見込まれたため、実験計画が当初の計画以上に進展した平成28年度は主として細胞実験を行うことにより使用動物数を削減し、次年度使用額として備えた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度においては一般試薬、抗体等の購入、実験動物(ラット)の購入、培養関係消耗品とプラスチック類の購入、さらに国内外旅費、学会参加費や学会誌投稿料などに経費を使用する。この中で使用動物数の増加に伴った経費を次年度使用額から支払う予定である。
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