研究実績の概要 |
カンスタチンは心筋細胞周囲の基底膜を構成するIV型コラーゲンα2鎖の分解産物である。これまでに、カンスタチンが心臓構成細胞において様々な生理活性を持つことを明らかにしたが、心疾患の発症・進展における役割や発現動態には未だ不明な点が多く残されている。そこで本研究は、カンスタチンの心臓における病態生理学的役割を解明することを目的とし、心臓構成細胞(in vitro)と心疾患モデル(ex vivo, in vivo)を用いて検討を行った。 本年度は前年度から継続して詳細な検討を行い、(1)カンスタチンがラット心室筋細胞のL型カルシウムチャネル活性の制御に関わること、そして(2)ラット心筋梗塞モデルの梗塞領域において発現増加したカテプシンSがカンスタチンを分解し発現を減少させることを明らかにし、それぞれ国際学会で発表するとともに学術論文として公表した。また、(3)ラット灌流心の冠動脈結紮により作製したex vivo心筋梗塞モデルにおいて、RNA干渉法を用いたカンスタチン発現抑制によりアポトーシスが亢進することを明らかにし、国内学会で発表した。さらに、(4)モノクロタリン誘発肺高血圧症モデルラットへのカンスタチン慢性投与が右心肥大を抑制するという予備的結果を得た。本研究期間では(1)から(4)の成果に加え、カンスタチンが(5) H9c2心筋芽細胞において低酸素誘導性アポトーシスを抑制することや、(6)ラット心筋梗塞モデルの梗塞領域由来筋線維芽細胞の機能を調節することを明らかにしてきた。本研究成果の一部を総説論文としてまとめ、公表した。 以上の結果から、カンスタチンが心保護的に働く内因性生理活性物質であることが示唆され、その発現が心筋梗塞後に減少することが明らかになった。本研究成果をもとに、カンスタチンを標的とした心疾患に対する新規治療戦略の開発が進むことが期待される。
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