小胞体αグルコシダーゼ阻害薬(AGI)は、宿主細胞のαグルコシダーゼの働きを抑制する事で糖蛋白質の合成を阻害する。このため、AGIは、コロナウイルス(CoV)を初めとするエンベロープウイルスに対して抗ウイルス活性を示す。我々は、これまでに、化合物ライブラリーからスクリーニングを行い、動物およびヒトCoVに対して強力な抗ウイルス活性を示す新規AGIを6種類同定した。AGIが示した抗CoV活性は、当初、構造蛋白質であるS糖蛋白質の合成阻害に起因すると考えられていた。ところが、AGIはCoVのS糖蛋白質だけではなく非糖蛋白質及びその転写活性をも選択的に阻害する事が示唆された。最終年度は、AGIが示したこの予想外の抗CoV機構の解明を試み以下の成果を得た。 1)CoVは感染すると宿主細胞由来の脂質2重膜を変化させてDMVsと呼ばれる「CoV専用の複製工場」を形成する。このDMVs形成には、非構造蛋白質のNSP3、4及び6が関与する。NSP3及びNSP4は糖蛋白質であることから、AGIはこれら糖蛋白質に作用してDMVs形成を抑制すると仮定した。そこで、AGI存在及び非存在下、感染細胞のDMVs形成を観察したところ、AGI存在下ではDMVs形成が著しく抑制される事が分かった。 2)次にAGI存在及び非存在下、NSP4糖蛋白質の合成量を比較したところ、AGI存在下ではNSP4合成が強く阻害される事が分かった。 これらの結果から、AGIは非構造蛋白質のNSP4糖蛋白質の合成を阻害することでCoV専用の複製工場DMVs形成そのものの合成を抑制し、結果として、CoVの転写活性・翻訳活性を強力に阻害することで強い抗CoV活性を持つことが示唆された。今後は、AGIによる抗CoV機構のさらなる詳細な解析を行いたい。
|