研究課題/領域番号 |
16K08034
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
島田 章則 麻布大学, 生命・環境科学部, 教授 (20216055)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 黄砂 / シリカ / サイトカイン / 肺組織傷害 / インフラマソーム |
研究実績の概要 |
病原体や結晶粒子に対する自然免疫応答に、カスパーゼ活性化、ひいてはIL-1βやIL-18分泌を誘導する巨大蛋白質複合体であるインフラマソームが関与することが明らかになりつつある。今回、黄砂・PM2.5の組織傷害・炎症誘発機序を明らかにする目的で、粒子貪食マクロファージにおける「自然免疫」 (インフラマソーム活性)に注目し、粒子曝露後のラットの肺の病理学的解析を行った。また、シリカのラットへの慢性曝露で発がんが報告されていることから、F344ラットを用いて、シリカおよび黄砂の慢性曝露(12か月)を実施した。6週齢のメス、F344ラット (日本CLEA)に黄砂標準粒子 (CJ-1)・結晶シリカ粒子 (Min-U-Sil 5: 粒径 1.8 um) (20mg/200ul)を気管内投与した。6、24時間後に、気管支肺胞洗浄液および肺組織を採取した。肺組織の炎症・傷害像、マクロファージによる粒子処理像 (オートファジーマーカー LC3、リソソームマーカー Lamp1、電子顕微鏡解析)、インフラマソーム活性化 (インフラマソームマーカー NLRP3、インフラマソーム活性化因子 カテプシンB)、炎症性サイトカイン (TNF-α、IL-1β、IL-6)および活性酸素種 (SOD、8ニトログアノシン)の関与を病理学的に解析した。 その結果、投与24時間後の肺組織に、黄砂粒子では化膿性の、結晶シリカ粒子では出血性線維素性の重度の炎症像が認められた。いずれも、気管支肺胞洗浄液におけるIL-1β・蛋白濃度の上昇および好中球増数を示した。また、粒子貪食肺胞マクロファージの細胞質におけるオートファジー亢進、カテプシンの一過性の上昇後のインフラマソーム活性化および炎症性サイトカイン陽性像が認められ、黄砂・PM2.5による肺組織傷害への自然免疫応答の関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黄砂・シリカ粒子の細胞内局在およびサイトカイン産生像ならびに傷害の進行過程において、肺胞壁の線維化や線維化に上皮間葉転換が関与することを示し、学会で報告した。特に、肥厚した肺胞壁はマッソン・トリクローム陽性所見を示した。シリカ投与1, 3, 6カ月後剖検群において、線維化を伴った結節性肉芽腫(珪肺結節)が認められ、肉芽腫内の類上皮細胞にシリカ粒子の集積が認められた。6カ月後剖検群では、結節は顕著な線維化を伴っていた。Ⅱ型肺胞上皮細胞の過形成および筋線維芽細胞様の紡錘形細胞の増生が結節内に認められ、前者は3カ月後剖検群で、後者は6カ月後剖検群でより多く認められた。これらの所見から、黄砂投与による肺胞壁の肥厚・気腫は、ヒトの肺線維症の発生機序を、また、シリカ投与による顕著な線維性結節は、ヒトの珪肺症における珪肺結節形成機序を解析する上で有用であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で示された微細粒子の電顕レベルでの侵入経路・局在、炎症巣での活性酸素種・サイトカイン産生、化膿性炎症像からの肉芽腫性炎症像への経時的変化についての研究成果をもとに、黄砂・PM2.5のラットへの慢性曝露実験を引き続き行い、「発がん」に焦点を当て、微細粒子による細胞傷害発生機序を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験が当初の計画よりも良好に進み、実験動物ならびに飼料の購入が不要になったため次年度使用額が生じた。この次年度使用額を、次の慢性曝露実験に用いる。
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