研究実績の概要 |
本研究では、黄砂・PM2.5の肺組織傷害機序として、 1. 肺胞壁の細胞内に取り込まれた粒子の細胞内での局在・動態、2. 粒子への自然免疫性粒子排除機構の細胞傷害への関与、3. 肺組織の線維化の発生機序への上皮間葉転換の関与を明らかにすることを目的としている。昨年度までに、異物である黄砂粒子を貪食したマクロファージ内での粒子の挙動および粒子に対する生体反応、特に防御系としての自然免疫系オートファジーの関与について、電子顕微鏡レベルで解析し、オートファジー停滞を示唆する結果を得た。結晶シリカの気道曝露は、顕著な線維化を伴う珪肺結節を誘発する。一般に、分化した粘膜や皮膚の上皮は骨や線維などの間葉系には分化しない。しかし、癌や慢性炎症の病態下ではサイトカインTGF-βを誘因とする分化した上皮の間葉系細胞への変化(上皮間葉転換)が起こることが示唆されている。最終年度は、結晶シリカの気管内投与後のラットの肺における線維化の機序について、病理学的解析を行った。6週齢雌のF344ラットに結晶シリカ(Min-U-Sil 5, 粒径1.8μm)50mg/200µlを気管内に4回投与後、マッソン・トリクローム染色、免疫組織学的解析(TGF-β, Cytokeratin K8/K18, Vimentin)およびウエスタンブロット解析を行った。シリカ投与6, 12カ月後剖検群では、顕著な線維化を伴う珪肺結節が認められ、結節内にはⅡ型肺胞上皮細胞の過形成および筋線維芽細胞様の紡錘形細胞の増生が認められた。投与6ヶ月後までの強いTGF-β陽性所見が認められた。また、結節内の同一の紡錘形細胞の細胞質内に、上皮系マーカー(Cytokeratin K8/K18)および間葉系マーカー(Vimentin)の局在が示され、シリカ粒子による珪肺症の進行に、TGF-βを介した上皮間葉転換の関与が示唆された。
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