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2016 年度 実施状況報告書

トゴトウイルスの感染と病原性発現メカニズムに関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 16K08036
研究機関京都産業大学

研究代表者

前田 秋彦  京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (70333359)

研究期間 (年度) 2016-10-21 – 2019-03-31
キーワードトゴトウイルス / ミニゲノム / リバースジェネッティックス / 病原性
研究実績の概要

本研究課題は、2013年に京都市で捕獲したマダニから分離したトゴトウイルス(THOV)のリバースジェネティックスを構築し、THOVの感染メカニズムを解明することを目的としている。本年度は、研究手法として用いるための、「THOVのミニ ゲノム発現系」の確立を試みた。THOVはオルソミクソウイルスに属する、6分節のマイナスの一本鎖RNAをゲノムとして持つ。今回、作製したTHOVのミニ ゲノムRNAは、THOVゲノムの転写・複製・翻訳に必須と考えられているゲノムの5’と3’の非翻訳領域の間にレポーター遺伝子(赤色蛍光蛋白質(DsRed2)遺伝子)をアンチセンスの方向性に配置したウイルスゲノムRNA様のRNAである。まず、ヒトのRNAポリメラーゼI(Pol I)プロモーターの下流に上述のミニ ゲノムRNAのcDNA(THOVの第5分節の非翻訳領域を持つ)を配置し、更にその下流にマウスのPol Iターミネーターを配置したプラスミド(pHH21 THOV Mini Genome (DsRed2))を構築した。このプラスミドをヒトのHeLa21細胞に導入したところ、目的とするTHOVのミニ ゲノムRNAが発現していることがRT-PCRにより確認された。しかし, ミニ ゲノムRNAを鋳型として合成されるプラス鎖のRNAと、このプラス鎖RNAを鋳型として翻訳されるDsRed2蛋白質は検出されなかった。次に、ミニ ゲノムRNA発現プラスミドを導入し、THOVミニ ゲノムRNAを発現している細胞にTHOVを感染することにより、ウイルスのRNA合成酵素を供給したところ、ミニ ゲノムRNAを鋳型とするプラス鎖RNAの産生がRT-PCRにより確認された。さらに、DsRed2蛋白質が蛍光顕微鏡下で検出された。これらの結果は、目的とする「THOVのミニ ゲノム発現系」が確立されたことを意味する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の目的は、京都市で分離されたTHOVのin vitroおよびin vivoにおける感染メカニズムを解明することである。研究の第一段階として、解析手法であるTHOVのリバースジェネッテックス法を確立することが必要である。そこで本研究の初年度である本年度は、「THOVのミニ ゲノムRNA発現系」の構築を目指した。THOVのミニ ゲノムRNAは、THOVの第5分節ゲノム(ヌクレオキャプシド蛋白質をコードする)の5’ および3’ 末端の非翻訳領域の間にレポーター遺伝子であるDsRed2遺伝子を(ウイルスのゲノムがマイナス鎖であるため)アンチセンスの方向性に持つように設計した。このTHOVのミニ ゲノムRNAのcDNAを、ヒトのRNA Pol Iプロモーターの下流に配置し、その下流にマウスのPol Iのターミネーターを配置した発現プラスミドを構築できた。さらに、このプラスミドをヒト由来の細胞に導入することにより、目的とするTHOVのミニ ゲノムRNAが発現していることを確認した。また、THOVのミニ ゲノムRNA発現細胞に、THOVを感染させると、ウイルスのRNAポリメラーゼを利用して、ミニ ゲノムRNAを鋳型とするプラス鎖のRNAが合成され、このプラス鎖RNAからDsRed2蛋白質が翻訳されることが示された。THOVのミニ ゲノムRNAの発現量や、レポーター蛋白質の検出方法など、今後において若干の改良する必要があるが、本年度に得られた成果は、「THOVのミニ ゲノムRNA発現系」の構築が成功したことを示している。したがって、本計画は概ね順調に進んでいるものと判断できる。

今後の研究の推進方策

本年度に確立した「THOVのミニ ゲノム発現系」は、レポーター遺伝子として蛍光蛋白質を用いているため、その発現の確認を蛍光顕微鏡下で定性的に行っている。今後の研究においては、THOVの転写・複製・翻訳を詳細に検討する必要があり、ミニ ゲノムの発現を定量的に解析する必要がある。そこで、分泌型ルシフェラーゼ(SEAP)などの酵素をレポーターとして用い、細胞上清中に分泌されるSEAPの酵素活性を測定することで、ミニ ゲノムの発現を定量的に解析する。また、これまでの私の研究室での解析から、THOVはヒト細胞よりハムスター細胞に対して、より高い親和性を示すことが明らかとなった。そこで、ハムスター細胞を用いた「THOVのミニ ゲノム発現系」を構築する。すなわち、ヒトのPol Iプロモーターの代替としてハムスターのPol Iプロモーターを用い、ハムスター由来のCHO細胞やBHK-21細胞を用いる発現系を構築する。この改良系を用いて、in vitroにおけるTHOVの増殖メカニズムの解明を行う。例えば、ミニ ゲノムRNAの非翻訳領域の塩基配列に様々な変異を導入し、ウイルスの転写・複製・翻訳に関与する塩基配列を決定する。また、各ゲノムRNAの分節の5’および3'非翻訳領域を持つミニ ゲノムRNAを作製し、非翻訳領域の塩基配列の違いによるゲノムRNAの転写や複製、翻訳への影響について検討する。さらに、組換えTHOVを作製し、THOVのin vivoでの感染メカニズムについて検討する。すなわち、6分節の全てのゲノム RNAを発現するプラスミドと、全てのウイルス蛋白質を発現するプラスミドを作製し、1つの細胞に同時に発現することで、人工的にウイルスを作製する系を構築する。この系を用いて、種々に遺伝子変異を導入した組換え体を作製し、THOVの感染に関与するウイルス因子の同定を試みる。

次年度使用額が生じた理由

平成28年度に計画していた研究が順調に進んだため、当初、当該年度に使用する予定であった研究経費のうち、「物品費(消耗品費)」の一部を次年度に繰り越すことにした。また、研究成果を学会で発表するために使用を予定していた「旅費」についても、当該年度に予定していた学会での発表がスケジュール上、困難となったため、次年度に行うことにした。「人件費・謝金」および「その他」の費用も含め、合計449,914円を次年度に繰り越すことにしたため。

次年度使用額の使用計画

平成28年度からの繰越額の全てと次年度助成金とを、THOVのミニゲノムRNAを発現するプラスミドの作製と、ミニゲノムRNAを培養細胞で発現解析するための試薬品類やプラスチィック類などを購入するための「物品費」、研究成果を学会で発表するための「旅費」、「人件費」および「その他」として、次年度に使用する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2017 2016

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] トゴトウイルスのミニゲノム発現系の確立2017

    • 著者名/発表者名
      辻本絢香,脊戸優,染谷梓,前田秋彦
    • 学会等名
      第52回日本脳炎ウイルス生態学研究会
    • 発表場所
      EM ウエルネスリゾートコスタビスタ沖縄(沖縄県・那覇市)
    • 年月日
      2017-05-19 – 2017-05-20
  • [学会発表] Vero E6細胞におけるトゴトウイルスの増殖機構2016

    • 著者名/発表者名
      佐々木創平,脊戸優,染谷梓,好井健太朗,前田秋彦
    • 学会等名
      第64回日本ウイルス学会
    • 発表場所
      札幌コンベンションセンター(北海道・札幌市)
    • 年月日
      2016-10-23 – 2016-10-25

URL: 

公開日: 2018-01-16  

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