これまでの研究で、京都市で捕集したフタトゲチマダニから分離したトゴトウイルスHl-Kamigamo 25株(THOV)のミニゲノムRNA(THOVの5’および3’非翻訳領域を両末端に、その間にレポーター遺伝子として赤色蛍光蛋白質(DsRed2)遺伝子をアンチセンス方向に配置したRNA)発現プラスミドを構築した。本研究を開始した当初は、ヒト由来細胞を用いたTHOV ミニゲノム発現の開発を目指したが、DsRed2の発現量が少なかった。そこで、昨年度、THOVの感染効率が高いハムスター由来細胞を用いた発現プラスミドを構築し、本年度、ハムスター細胞を用いたミニゲノム発現系について検討した。しかし、残念ながら、ハムスター細胞系においてもTHOVミニゲノムRNAの発現系は効率良くなかった。これらの系においては、THOVを感染によりTHOVのRNA合成酵素を補っていたことが、システムとして上手く働かない理由ではないかと考えられた。そこで、THOVのRNA合成に関与するウイルス蛋白質のNPとRNA合成酵素(PB1、PB2およびPA)の4種類の蛋白質を、それぞれ発現するプラスミドを構築し、THOVミニゲノムRNA発現プラスミドと共に細胞に導入した。その結果、ヒトおよびハムスターの両細胞の系において、レポーター蛋白質であるDsRed2の発現が観察された。 また、小型実験動物へのTHOVの感染実験を行い、その感染性と病原性を確認した。THOVを4週齢の雌のBALB/c、ICRおよびC57BL/6マウスの腹腔に接種(ip)したところ、顕著な病態変化は観察されなかった。次に、4週齢の雌のシリアンハムスターにTHOVをipで接種したところ、感染後数日以内に出血性の症状を伴って斃死した。組織病理学的には、肝臓や腎臓に強い炎症が認められ、各臓器でアポトーシスやネクローシス像が観察された。
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