研究課題/領域番号 |
16K08042
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
加来 義浩 国立感染症研究所, 獣医科学部, 主任研究官 (70392321)
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研究分担者 |
浅井 知浩 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (00381731)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 狂犬病 / 治療 / DDS / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
狂犬病は、狂犬病ウイルス(Rabies virus: RABV)を原因とする人獣共通感染症である。ひとたび発症すると確実な治療法はなく、致死率はほぼ100%である。本研究は、RABVに対する人工小型抗体(single chain variable fragment: scFv)をRABV感染細胞に導入して、RABVの増殖を阻害することにより、狂犬病の治療法への応用を目指す。 当初の計画では、ナノ粒子を血中に投与し、血液脳関門(BBB)を通過させて脳実質へ送達することを目的とし、BBB透過性分子とRABV感染細胞特異マーカーで修飾したナノ粒子の開発を目指していた。しかし近年、経鼻接種により、薬剤を脳実質へ送達する技術が進展しつつある。経鼻接種では、血中投与より低い侵襲性で効果が期待できることから、本研究においても経鼻接種を前提にナノ粒子の開発を進めることとした。 今年度は、in vitroにおけるウイルス増殖阻害効果を確認済みの抗RABV-P蛋白質scFvクローン(scFv-P19)について、作用機序の解明を目指してエピトープの解析を進めた。決定したエピトープの位置から、同scFvがP蛋白質とL蛋白質の結合を阻害する可能性が示唆されたことから、岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科の伊藤直人博士および牧野真知子氏の協力を得て、PおよびL蛋白質発現細胞lysateを用いた共免疫沈降法を実施したが、scFv-P19によるP-L蛋白質間の結合阻害作用は確認できなかった。 続いて、経鼻接種の条件を検討するため、まず市販のtransfection試薬を用いて、scFv-P19発現プラスミド封入ナノ粒子を作製し、マウスへの経鼻接種を行った。接種2日後にホルマリン固定した脳材料から切片を作製し、抗scFv抗体を用いた免疫組織化学染色を実施した。接種部位および脳においてscFvの発現は確認できなかったが、接種時の麻酔方法や投入するDNA量等の条件を変更することで、発現効率の向上が期待できる示唆が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
in vitroにおけるウイルス増殖阻害効果を確認済みの抗RABV-P蛋白質scFvクローン(scFv-P19)について、エピトープマッピングを行い、P蛋白質のN末端に近い6アミノ酸残基の幅に絞り込むことができた。同領域については、過去にL蛋白質との相互作用に関与する可能性を示唆する報告がなされているが、現時点ではscFv-P19によるP-L蛋白質間の結合阻害作用を示す結果は得られていない。しかし、今回のエピトープの詳細な決定は、scFvの機能解析のための具体的な実験計画の策定につながることから、大きな成果と考えている。 scFvの中枢神経系へのデリバリーについては、当初「RABV感染細胞特異マーカー結合分子」を用いて、RABV感染細胞特異的に発現させるピンポイントDDSを目標としていたが、同分子については、複数の候補について研究を進めているものの、まだ確定するに至っていない。一方、近年の経鼻接種の研究では、標的特異マーカーを保持しないナノ粒子について、至適なナノ粒子組成や接種方法を用いることで、脳の広範囲にデリバリーされる報告が得られている。このことから、本課題においても、まず標的特異マーカーを保持しないナノ粒子を経鼻接種することにより、scFvを中枢神経系にデリバリーするために最適な条件を探索する必要があると考える。そのために本課題の実施を1年延長したことから、進捗状況を「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られたscFv-P19のエピトープマッピングの解析結果をふまえ、in vitroで確認されているウイルス増殖阻害効果の分子的基盤の解明を目指し、scFv-P19の作用機序の解析を進める。 一方、DDSについては、上述のとおり、近年の研究では至適なナノ粒子組成や接種方法を用いることで、経鼻接種により脳の広範囲にデリバリーされる報告が得られていることから、標的特異マーカーを保持しないナノ粒子を中枢神経系へデリバリーすることを当面の目標とする。デリバリーするscFv遺伝子は、マウスに合わせてコドン最適化したscFv-P19に照準を絞り、in vitro/in vivoにおける実験に利用する。具体的には、まず組成ならびに粒子径を至適化したscFv-P19遺伝子封入ナノ粒子をRABV感染/非感染細胞に接種し、scFvの発現状況、RABVの増殖阻害効果を検証する。並行して、同ナノ粒子を非感染マウスに経鼻接種し、中枢神経系におけるscFv発現分布を解析し、至適な接種条件を探る。 その結果をふまえ、RABV感染/非感染マウスにナノ粒子の経鼻接種を行い、scFvの発現状況、RABVの増殖阻害効果およびマウスの生存日数への影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、「RABV感染細胞特異マーカー結合分子」を外套したナノ粒子を作製する予定であった。しかし上述のとおり、「RABV感染細胞特異マーカー結合分子」の探索が継続中であるとともに、投与経路を経鼻接種に変更したことにより、今年度は外套分子を持たないナノ粒子のみの作製となった。これにより、当初計画していたナノ粒子合成費用のうち、分子の外套に必要な材料の購入を行わなかったことから、次年度使用額が生じた。これらは次年度に計画しているナノ粒子の合成、酵素類、シークエンス関連試薬およびマウス等の購入費用として使用される。
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