家畜の免疫系は、個々の栄養状態、発育状態、飼育環境などのストレス要因で個体差が生じやすく、肺炎や下痢などが発症し、慢性化する前に免疫低下の状態を発見することは容易ではない。結果として多くの頭数の家畜が慢性消耗性疾患にて死廃となっているのが現状である。そこで本研究では、末梢血を用いた家畜胸腺機能の評価方法を確立することで、疾病発症前にその個体の発見の可能性を検証し、飼養管理による胸腺機能の増強が可能であるかどうかの検討を行う。初年度には、ウシ、ブタの胸腺機能の評価方法を確立した。二年目以降には、臨床応用のための以下の基盤研究を行った。1)廃用牛から得られた末梢血と胸腺サブセット解析とともにsjTREC量を指標とした定量を行い、胸腺機能の低下が評価できるかどうかを実施した。廃用牛では肉眼的に胸腺の小さい個体が多く、sjTREC量も低いため、胸腺の機能低下がおこっている事が明らかになった。ただし栄養状態に関わらず同じ月齢であってもかなり数値にぶれが有る事が明らかになった。つまり、胸腺の機能は常に動的なものであると思われた。2)栄養補助剤(アミノ酸製剤、ビタミン剤などの飼料添加剤)などを用いたウシ、ブタについて経時的に増体など一般的な検査項目と共に、末梢血を採取しサブセット解析などを実施し免疫能の評価を行い、さらにsjTREC定量を行った。栄養補助剤の添加や飼育環境の改善などの飼養改善を実施する事によって、末梢血中のsjTREC量が増加する事が観察された。つまり、家畜の飼養管理を改善することによって胸腺機能が改善がおこっている事が明らかになった。最終的に、3)ウシとブタについては末梢血を用いてsjTRECの定量を用いた胸腺機能の評価方法が確立できたが、ウマでは今回の定量方法ではうまく行かなかったので、ゲノム情報を精査しプライマーの再設計をする必要が有る。
|