研究課題/領域番号 |
16K08059
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
玉田 尋通 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (10155252)
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研究分担者 |
稲葉 俊夫 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 研究員 (00137241)
川手 憲俊 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (80221901)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ウシ / 卵子 / 成熟培養 / MAPK / 胚盤胞 / 酸化還元 |
研究実績の概要 |
平成28年度にはウシ卵子の成熟培養時に5μMのU0126を2時間添加することにより、胚盤胞発生率が増加することを明らかにした。平成29年度には、成熟培養後に胚盤胞発生率の推定を可能にするマーカーを探すことを目的に、U0126添加が卵胞発育関連因子、卵子細胞質成熟関連因子および抗酸化因子の遺伝子発現や活性酸素種(ROS)含量に及ぼす影響を調べた。その結果、U0126添加により、成熟培養後の卵子におけるROS含量が有意(P<0.05)に低下し、抗酸化因子であるCatやNRF2の遺伝子発現量に低下する傾向(P<0.08)が認められた。 一方、黒毛和種牛から経腟採卵(OPU)により回収した卵子をU0126添加培養液で成熟培養させ、その後培養液に成長因子(IGF-IとEGF)とグルコースを添加する培養法を我々の既報(Sakagami et al., J Reprod Dev, 2012, 58, 140-6; Sakagami et al., J Vet Med Sci, 2014, 76, 1403-5)に順じて実施したところ、胚盤胞発生率は41.4%であり、U0126無添加群の19.6%と比べて有意(P<0.05)に高かった。さらに、U0126処置群(n=2)と対照群(n=2)の胚盤胞をレシピエントの子宮内に移植したところ、1頭ずつ受胎したが、対照群は流産し、U0126処置群では正常な産子が得られた。 以上の結果から、U0126添加成熟培養法による胚盤胞発生率向上に酸化還元状態が関与する可能性が示唆された。胚盤胞発生率の推定を可能にするマーカーについてはさらなる検討が必要と考えられる。また、OPUにより回収した卵子を用いて、U0126添加成熟培養法とその後の改良培養法を組み合わせることにより、高い胚盤胞発生率と正常産子を得られることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウシ卵子の胚発生能マーカーの検出を目的として実験を実施したが、卵子成熟培養時のU0126添加による胚盤胞発生率向上に卵子成熟培養後の酸化還元状態が関与しているという従来の報告を支持する結果が得られた。さらに卵子のどの遺伝子発現量が端的にマーカーとして用いることができるのかについては今後のさらなる検討が必要と考えられる。一方、OPUにより回収した卵子を用いた実験では、U0126を成熟培養時に添加し、既報(Sakagami et al., J Reprod Dev, 2012, 58, 140-6; Sakagami et al., J Vet Med Sci, 2014, 76, 1403-5)に順じてその後の培養を実施したところ、U0126添加によって著しく高い胚盤胞発生率を得ることができた。さらに次年度に実施する予定であった胚移植実験を実施したところ、U0126処置群の胚から正常な産子を得ることができた。 以上のように、平成29年度実施予定の胚発生能マーカーの検出に関しては、充分な結果が得られず、さらなる検討が必要であったが、OPUで得られた胚を移植する実験では予定より早く研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ウシ卵子の胚発生能検出マーカーを明らかにするために、胚盤胞発生率を向上させるU0126を成熟培養時に処置した卵子と無処置の卵子の間の相違を、成熟培養後の酸化還元関連因子等を中心にさらに検討する。さらに、OPUで回収した卵子を輸送することを考え、U0126処置を一晩以上に延長してその後22時間成熟培養することにより、胚盤法発生率が改善されるか否かを検討したいと考えている。さらに、U0126処置に加えてcAMP合成酵素活性化剤のフォルスコリンやcAMP分解酵素阻害剤IBMX等の処置を組み合わせることにより、胚盤胞発生率がさらに向上するか否かについても時間が許す限り検討を加えたいと考えている。
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