研究課題
申請者らはこれまでに、①牛白血病ウイルス(BLV)はウイルス転写活性化因子であるTaxタンパク質の233番アミノ酸によってプロリン(P)型及びロイシン(L)型に2分されること、②P型ウイルスに感染したウシの地方病性牛白血病(EBL)発症の平均年齢がL型のそれに比べて22ヶ月遅いことを示している。今年度は、道内9農場のウシでBLV感染が確認された324検体について、ウイルスのアミノ酸型別を実施したところ、90.7%がL型と判定された。申請者らは第161回日本獣医学会において、東北地方における黒毛和種(JB)のEBL例の大部分ではP型ウイルスが検出され、北海道では大部分P型ウイルスが検出されることを報告した。ホルスタインが大勢を占める北海道内のウシでは、L型ウイルスが蔓延しているものと考えられる。JBについて、平成28、29年度の成績を加えて末梢血ウイルスコピー数を比較した。アミノ酸型別にウイルスコピー数と採材時月齢の分布を調べたところ、全L型およびP型ウイルス感染牛におけるコピー数の中央値は各々141.8及び228.5であったが、L型ウイルス感染牛では若齢期に外れ高値を示す個体が認められた。このような個体は早期のEBL発症及び感染源となる危険性が高いことから、これらの摘発・淘汰がEBL発生制御のため重要である。L型Tax発現細胞がアネキシンA3(ANX3)を大量に分泌することを示した。本成績は、L型Tax発現細胞がヌードマウス皮下に大きな腫瘍を形成した過年度の成績と一致した。そのため、組換え体ウシANX3を作製し、マウス及びウサギを免疫してEBL発症前診断法の開発に資することとした。BLVの病原性発現機構を解明し、ワクチンを開発するため、L型及びP型Tax発現BLV感染性クローンを得た。これらをブタ腎由来CPK細胞にトランスフェクトし、持続性ウイルス産生細胞株を樹立した。
2: おおむね順調に進展している
全国の食肉衛生検査所及び道内家畜衛生保健所の協力による疫学調査は、当初の計画以上に進展している。BLVの病原性発現機構解明及びEBL発症前診断法の開発は、概ね計画通りに進展している。一方、ワクチン開発は当初計画に比べ1~1年半程度遅れている。また、動物実験を担当する分担者死去のため、ヒツジを用いた感染実験が実施出来なくなった。
疫学調査を継続し、成績をEBL発生制御のため啓蒙活動に資する。ウシANX3に対するモノクローナル抗体を作出し、ELISAを用いた血中濃度測定法を開発する。これをTaxの遺伝子診断及び末梢血ウイルスコピー数測定と組合せ、EBL発症前診断法を確立する。BLVの病原性発現機構解明及びワクチン開発については、持続性ウイルス産生細胞株のin vitro性状検査を実施して将来の感染実験に備える。
研究分担者の死去によりヒツジの感染実験施設が使用できなくなくなった。そのため、動物代金および飼養費として確保していた予算額が未執行となっている。ワクチン候補株のin vitro性状解析に注力し、将来の感染実験に備える。そのため、新たに持続性ウイルス産生細胞株のヌードマウスへの移植実験を実施する。新規EBL発症前診断法開発のため、当初計画にはなかったウシANX3に対するモノクローナル抗体の作製を行う。モノクローナル抗体作製に際し、大量のプラスチック製培養器及びウシ胎児血清をはじめとする試薬類を使用する。
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Ticks and Tick-borne Diseases
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