研究課題
小動物における輸血療法は有効かつ不可欠な治療であるが、異型(血液型不一致)輸血は、重篤な副作用を惹起する原因となるため、適合血の指標である血液型抗原エピトープの構造解明は、より安全な輸血医療を行う上で臨床学的に重要な課題となっている。加えて近年、小動物においてもウイルスが血液型物質に吸着することが報告され、血液型物質と感染感受性に注目が集まっている。しかし血液型物質の分子基盤はまだ未解明な領域があり、また我が国で血液型と疾患感受性に着目した研究は殆どない。そこで、本研究では、輸血副作用を惹起する血液型物質の分子基盤構築と疾患感受性関連解析への展開として課題を立案した。1年目となる平成28年度においては、主に臨床的に重要なネコAB式血液型の3つの表現型であるA型、B型およびAB型の中で、分子基盤解明のブレークスル―となり得る非常に稀なAB型とCMAH遺伝子との関連およびイヌにおけるCMAH遺伝子変異探索ならびに赤血球膜に発現するシアル酸の違いとパルボウイルス感染感受性の関連解析について実施した。その結果、N-アセチルノイラミン酸とN-グリコシルノイラミン酸の発現で規定されるネコAB血液型において、AB型とCMAH遺伝子変異の関連を明らかにし、B型の知見と合わせ研究成果を国際誌上で公表した(Omi T. et.al. 2016, PLOS ONE 11(10):e0165000)。またイヌCMAH遺伝子解析において、非同義置換を含む複数の新規SNPを同定した。さらに、疾患感受性関連解析においては、臨床と基礎を繋げる研究チーム体制を初年度から構築し、標的疾患の試料の収集、血液型判定、CMAH遺伝子解析、パルボウイルス遺伝子解析などの実験に着手した。以上、本年度の研究遂行により将来臨床獣医学分野に応用可能な新規のエビデンスを見出した。
2: おおむね順調に進展している
研究実績概要に記述したとおり、本研究課題である、輸血副作用を惹起する血液型物質の分子基盤構築と疾患感受性関連解析への展開の1年目となる平成28年度においては、ネコの血液型物質の分子基盤解明する上において不可欠な非常に稀なAB型個体(当研究室では約700例のスクリーニングで未同定)のCMAH遺伝子解析を実施したことで、これまで解析したB型と合わせ、表現型とCMAH遺伝子変異の関連を中心に当該血液型の分子基盤について論じることが可能となり、その研究成果を国際誌上で公表した(Omi T. et.al. 2016, PLOS ONE 11(10):e0165000)。また、分子基盤解明後の展開として輸血医学以外の新たな臨床的応用として期待される、血液型と疾患感受性関連解析においても、赤血球膜上に発現するシアル酸(血液型物質)とパルボウイルス感染感受性との関連解析を一部着手できた。以上のことから本研究課題の遂行は概ね順調と言える。
今後の研究課題の推進等は、基本的には初年度の研究計画を継続的に実施することであるが、主には1)分子基盤解明のために必要なイヌおよびネコの血液型別ゲノムバンクを構築の継続において、血液型抗原の違いを分子レベルで解析するため、引き続き血液型情報付き小動物ゲノムバンクの構築を行う。さらに今年度は、新たに外部臨床機関とのネットワーク構築が進んでおり、検体収集の拡大のみならず本研究課題の成果の一部を臨床現場にフィードバックされることが期待される。2)ネコAB 式血液型(A、B、AB 抗原)を分類する簡便で迅速な遺伝子検査法の開発・改良においては、新たに同定したAB型ネコの変異遺伝子情報を加え、塩基配列解析からPCR法によるタイピング法の導入を行うことで、多量検体の解析にも対応できる体制を確立する予定である。3)血液型物質と疾患感受性の関連においては、すでに臨床検体から標的ウイルスの遺伝子を確認し、同様の解析検体を増やすとともに、最終的には血液型と遺伝子型の情報を連結し、疾患感受性を検証する。
当該研究課題を遂行するために必要な遺伝子を増幅するための酵素について、使用期限を考慮し、年度末購入ではなく、次年度の購入に変更した。
次年度の予執行が可能となり次第、使用期限が十分ある酵素試薬を購入する。
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PLoS One
巻: 11(10) ページ: e0165000.
doi: 10.1371/journal.pone.0165000.