研究課題
5-HT(serotonin)と副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)による泌乳調節機構と乳牛の分娩性低カルシウム血症への関与を明らかにするために、以下の実験を行った。。1.PTHrP分泌に対するカルシウム濃度の影響:ウシ乳腺上皮細胞由来培養細胞のbMECの機能解析を予定通り行った。予備実験の結果得られていたように、培養液のカルシウム濃度の違いを何からの方法で感知し、PTHrPの分泌を変化させていることは明らかであったが、カルシウム感知受容体の関与は明確ではなかった。カルシウム濃度に反応したPTHrPの分泌量の変化はbMECだけでなく、他の2つのウシ乳腺組織由来培養細胞でも確認されたことから、この調節機構の解明は今後も継続する。2.乳汁中のPTHrPとミネラルの濃度:今年度は大規模酪農場と現場獣医師の協力を得て、分娩性低カルシウム血症発症牛の乳汁を採取することが出来たのでこれらの乳汁のPTHrP濃度を測定した。さらに主要なミネラルであるカルシウム濃度やリン濃度を測定し、健康牛の乳汁と比較検討した。その結果、乳汁中に比較的多く含まれるカルシウムなどの主要なミネラルだけではなく、微量なミネラルも測定することが必要になり、ICP-MSによる牛乳中ミネラルの網羅的測定を行った。サンプルとなる初乳は脂肪やタンパク質などが多く含まれ、分解方法と希釈倍率の検討、再現性の確認に時間を要したが、最終的に13元素の測定を行う事が出来た。3.胎盤の胎子ミネラル栄養に対する関与:乳腺は新生子に対する栄養供給源であるが、胎盤は胎子に対する唯一の栄養供給源として重要であり、乳腺と対で研究することが必要と考えた。そこで大学附属動物病院に加え現場獣医師にも協力を得て、帝王切開時に臍帯動静脈と母牛の血液を採取し、乳汁と同様にPTHrPとミネラル濃度の網羅的測定を行うこと計画している。
2: おおむね順調に進展している
今年度取り組んだ3つの研究に対して下記のような結果を得られたので、ほぼ順調に研究は進展していると考える。1.PTHrP分泌に対するカルシウム濃度の影響:カルシウム感知受容体の関与は証明できなかったが、他の2つのウシ乳腺組織由来培養細胞でも同様な反応が確認された。近年全く異なるカルシウムによる調整系の存在が腫瘍組織などでは確認されており、これらのウシ乳腺由来培養細胞を用いて研究を継続することには、ウシ乳腺組織における5-HT-PTHrPの意義を解明するのに有意義と考える。2.乳汁中のPTHrPとミネラルの濃度:分娩性低カルシウム血症を分娩当日と翌日に発症した群で区別して解析した結果、いくつかのミネラルにおいて健康牛との間に有意な差があることを認めた。乳汁中のPTHrP濃度については、健康牛と比較しても分娩性低カルシウム血症の発症との関与は明確ではなかった。3.胎盤の胎子ミネラル栄養に対する関与:帝王切開時に臍帯動静脈と母牛の血液を採取し、20以上の検体を得た。ICP-MSにより一部の検体の測定を行ったところ、乳汁よりも多くのミネラルの定量が可能となった。
PTHrPとミネラルに関する研究においては新知見を得られつつあるので、この部分の解明に注力するが、5-HTに関する研究も進めていく必要がある。1.PTHrP分泌に対するカルシウム濃度の影響:bMEC以外の2つのウシ乳腺組織由来培養細胞のキャラクタライズと、カルシウム濃度の変化に対する5-HTとPTHrPの反応、およびその制御について検討する。bMECについてはカゼインなどの泌乳期特異的タンパク質の発現が十分に誘導されていないので、分化の検討も引き続き行っていく。2.乳汁中のPTHrPとミネラルの濃度:現在得られた結果の整理と検討を行っており、学会発表の準備中である。分娩性低カルシウム血症の乳汁サンプルは貴重なため、5-HT等さらに分析可能な項目がないかも検討中である。3.胎盤の胎子ミネラル栄養に対する関与:帝王切開時における臍帯動静脈と母牛の血液採取は継続して行っていく。その際には可能であれば胎盤節の組織採取も並行して行い、組織学的な検索も行っていく。また、帝王切開の理由は症例によって大きく異なるため、各検体が本研究に用いるのに適当か、注意して取捨選択することにした。
最終的に残った金額で、端数と考えていただきたい。
消耗品購入などに充てたい。
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家畜診療
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