泌乳期間を終えた乳用牛は、乳腺組織の回復と分娩準備の目的から乾乳期間を設けることが一般的である。乾乳時には、泌乳期間中に治癒に至らなかった乳房炎の治療だけでなく、乾乳直後の乳房内感染を予防する目的で正常乳房内にも抗菌薬の注入が行われている。近年、泌乳期において組換え蚕由来牛顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(TGrbGM-CSF)の乳房炎治療効果が見出されているが、乾乳時注入においても抗菌薬と同様の乳房炎治療及び予防効果が示されれば、抗菌薬使用量の低減に貢献することが期待できる。本研究では、乾乳前に実験的に黄色ブドウ球菌(SA)性乳房炎を作出し、乾乳時にTGrbGM-CSFを乳房内注入することによる乳房炎治療効果を検証した。 乾乳前にSA感染させた乳房に対する乾乳時のTGrbGM-CSF乳房内注入では、乾乳期間中にSAを排除することはできず、分娩後もSA乳房炎を発症した。今回の実験では、実験的SA乳房炎罹患牛に対するTGrbGM-CSFの乾乳期治療効果は得られなかった。 実験感染牛に対する結果と自然発症牛に対する結果は、異なることも多く見られるため、SA自然発症牛に対するTGrbGM-CSFの効果も確認する必要がある。また、本課題はTGrbGM-CSFの乾乳時治療試験であったが、治療効果だけでなく、健常牛の乾乳時にTGrbGM-CSFを乳房内注入することによる乳房炎予防効果の検証も、抗菌薬使用量の低減を考える上で必要な課題と考えられる。
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