研究課題/領域番号 |
16K08068
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木村 和弘 北海道大学, 獣医学研究科, 教授 (30192561)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アディポネクチン / CTRP11 / 増殖因子 / レチノイン酸 / HGF / NGF |
研究実績の概要 |
肥満は生活習慣病の危険因子であり対策が求められている。一方、肥満の進展には前駆脂肪細胞の増殖と血管新生が必須であるが、その調節機構は明らかではない。本研究では補体C1qと同様の構造を持つ成熟脂肪細胞分泌因子アディポネクチン(ADNEC)と脂肪組織間質血管細胞(SVC)群により分泌されるC1q/TNF related protein (CTRP)11に着目し、それらの細胞増殖因子などに対するマルチリガンド結合能により(SVCに含まれる)前駆脂肪細胞と血管内皮細胞の増殖が調節されていることを明らかにする。 平成28年度は先ず神経成長因子NGFによるラットPC12細胞の神経突起の伸張とADNECの影響について調べた。NGFはPC12細胞の神経突起を伸張させたが、ADNECの同時処置は突起伸張を抑制した。ADNEC受容体のノックダウンは抑制に影響せず、ADNECとNGFの結合が認められたので、抑制はADNECとNGFの結合に因るNGFシグナルの減弱であることが明らかとなった(投稿準備中)。またラットの白色脂肪組織(WAT)由来SVCの分離・培養とNGFの役割に関しては抗NGF抗体はラットSVCの増殖に影響しなかった。しかし、NGFファミリーに属する神経栄養因子NTに対する抗体はSVCの増殖を部分的に阻害した。つまりNTが新規の前駆脂肪細胞増殖因子である可能性が高く、この点について現在、検討中である。 更に脂肪細胞分化のグルコースとレチノイン酸による新たな制御機構、前駆および成熟脂肪細胞からの肝細胞増殖因子HGFの分泌特性に関する論文が受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は以下の項目について研究を計画した。1)神経成長因子NGFによるラットPC12細胞の神経突起の伸張とADNECの影響、2)ラットの白色脂肪組織(WAT)由来SVCの分離・培養とNGFおよびADNECの役割、3)組換えCTRP11の作製とケモカイン・増殖因子(アナライト)との結合解析、4)SVCの分画(前駆脂肪細胞と血管内皮細胞の精製)、5)WATおよび褐色脂肪組織 (BAT)由来SVCにおけるCTRP11遺伝子の発現である。 上述の通り1)に関しては、ほぼ予想通りの結果が得られNGFによるラットPC12細胞の神経突起の伸張をADNECが抑制し、それはADNECとNGFの結合に依ることが明らかとなった(投稿準備中)。2)に関してはラットSVCの増殖に抗NGF抗体は作用せず、ADNECのNGFに対する作用をこの実験系では見ることができない。しかし、NGFファミリーに属する神経栄養因子NTに対する抗体はSVCの増殖を部分的に阻害した。この結果はNTが自発性前駆脂肪細胞増殖因子として働く可能性を示唆したものであり、新規性が高く、この点について解析し、成果をまとめる予定である。NTもADNECと結合したことから、後ほどその相互作用について調べる予定である。 一方、3)については組み換え体の発現が上手くいかず、条件を検討している。4)については前駆脂肪細胞と血管内皮細胞の精製条件を検討中である。5)ではCTRP11遺伝子の発現について結果を得た。よって、幾つかの問題点はあるものの、概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度当初計画では1)NGFによるラットPC12細胞の神経突起の伸張とADNECの影響については論文に纏め投稿する。2)ラットの白色脂肪組織(WAT)由来SVCの分離・培養とNGFおよびADNECの役割に関しては論文が纏められるよう解析を継続する。また2)項が終わり次第、6)VEGFによる血管内皮細胞の増殖とADNECの影響について解析を開始するとしていた。 1)については計画通り進め、2)についてはNGFをNTに置き換え研究を継続する。また6)のVEGFの実験を開始する。 また当初計画より遅れている組換えCTRP11の作製を継続し、完成次第ケモカイン・増殖因子(アナライト)との結合解析を行う。可能であれば、当初計画にある7) CTRP11shRNAのSVCおよび精製前駆脂肪細胞への導入による細胞増殖と成熟脂肪細胞への分化への影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね順調に実施されているものの、平成28年度実施計画のうち3)組換えCTRP11の作製に問題があり、その後に予定したケモカイン・増殖因子との結合解析は全く行えていない。またラット脂肪組織間質血管細胞画分SVCからの血管内皮細胞と前駆脂肪細胞分離の条件検討はおこったが、ソーティングを利用した細胞分離は行ってていない。これらの実験に加え、2)項でNGFではなくNTが内在性の増殖因子である可能性が明らかになった。これらの理由のため次年度使用額として留保し、平成29年度計画において有効に使用しようと考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究推進方策の項に記したように、平成28年度計画で上手くいかなかった実験、あるいは予想と異なる結果が得られた実験があった。前者については条件を変え実験を行い、後者については細胞増殖因子 NTに焦点を当て実験を継続する。また当初計画していた新たな項目も開始する。次年度使用額に関しては主に平成28年度の実験計画に使用する。
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