研究課題
脊椎動物の多くは,それぞれの個体が雄もしくは雌のどちらかに分化して有性生殖を行うことが知られている.哺乳類ではY染色体に位置するSryが未分化性腺の支持細胞において発現を開始すると,精巣化実行因子Sox9の発現が誘導されることで精巣の形態形成が進行する.分化後の精巣においてはDmrt1が雌化関連遺伝子を抑制することで,性腺の性差維持を行っている. Dmrt1はDMドメインと呼ばれるDNA結合領域を有する転写制御因子であり,そのオーソログは脊椎動物のみならず,線虫やキイロショウジョウバエ等の無脊椎動物に至るまで広く存在し,その多くが性決定・性分化に関与している.ヒストン修飾状態の解析から,精巣においてのみエンハンサーシグナルがみられる領域が2つ存在し,Region I・IIと定義した.これらの領域について脊椎動物間における詳細な配列比較を行うと,Region I・IIともに進化的に保存されている領域を含んでおり,とくにRegion IIは真獣類特異的に塩基配列が保存されていた.同領域は精巣,卵巣および心臓において低メチル化状態にあった.さらに,同領域内で転写因子結合モチーフを探索すると,Sry,Sox gene family,Gata4などの精巣分化に必須の転写因子のモチーフが抽出された.加えて,レチノイン酸レセプターの結合モチーフの存在,および既報のChIP-seqデータを用いた網羅的な解析の結果においてNanog,Pou5f1の結合が認められた.本研究において新たに見出したRegionⅡはDmrt1の真獣類特異的エンハンサーであり,セルトリ細胞・生殖細胞において機能していると推測された.本研究は,in vivoにおけるDmrt1のシス調節領域について言及した最初の報告であり,性分化関連遺伝子の発現制御に対するNon-coding領域の関与について新たな知見を見出した.
2: おおむね順調に進展している
予備検討では,真性半陰陽において,胎子期における雄性化の実行因子であるSox9の性腺発現量に左右差を認めているが,その原因は明らかではない.すなわち,Sox9の上流因子であるSryの発現が不十分である可能性,もしくはSryの上流因子の発現調節が不十分であった可能性などが想定される.一方,性決定遺伝子Sryの発現は正常で,Sox9の発現維持が不十分である可能性も想定される.遺伝的背景は同一であるため,これらの発現量調節の過程にはエピジェネティックな遺伝子修飾が関与すると考えられるが,その詳細な解析のためには標的候補遺伝子を絞る必要がある.胎齢11.5日において認められたSox9発現量の差が,出生後の表現型の差に直接的に関与している可能性も考えられる.Sryが発現する前である10.5日胚における雄の頭側部・中央部・尾側部の3領域を,雌のそれと比較した網羅的解析の予備実験結果では,幾つかの興味深い結果を得ている.しかしながら,前部,中部,後部の3領域の境界領域が重要なことも想定され,前部と中部,中部と後部の2領域で再検討を行っている..
研究実績の概要には明記しなかったが,本年度は,Mus m. domesticus系統であるC57BL/6NマウスにMus m. domesticus poschiavinusのY染色体(Y(POS))を導入して,性逆転マウスの作製に成功した. SryおよびSox9が野生型よりも2~3尾体節(約9時間)遅延することにより精巣化が阻害されることを明らかにしている.その原因として,シークエンス解析の結果,精巣決定遺伝子SryはMus m. molossinus系統のものであり,また,XY型未分化性腺の部位別の遺伝子発現を網羅的に比較し,雄の性腺中央部における脂質代謝の亢進が精巣形成に関与することを明らかにし,性腺の発生およびSryの発現調節に関与する新規遺伝子候補を同定したい.特に,真性半陰陽マウスの精巣と卵巣(同一ゲノム背景)の個体発生学的エピゲノム解析,ならびにY染色体特異動原体の変異とエピゲノム制御(Xモノソミーモザイシスムの発現機構解明),または生殖細胞の性差はいつ,どのように生じるのか,等,性分化破綻機構の解明のために解析手段を加えたい.
研究遂行計画上,物品購入が遅れたこと,ならびに英文論文校正および投稿が年度末になり一部を繰り越すこととなった.
論文投稿の完了ならびに本年度は2年目にあたり,当初計画していた実験を遂行することにより速やかな物品費の使用を予定している.
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Dev Dyn
巻: 246 ページ: 148
doi: 10.1002/dvdy.24469
Journal Veterinary Medical Science
巻: 77 ページ: 1587, 1598
10.1292/jvms.15-0292
http://morfunc.main.jp