研究課題/領域番号 |
16K08078
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
五味 浩司 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (90293240)
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研究分担者 |
安井 禎 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (70434107)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 内分泌細胞 / 分泌顆粒 / ペプチドホルモン / IA2ファミリータンパク質 / グラニンタンパク質 / 遺伝子欠損マウス |
研究実績の概要 |
1. フォグリン遺伝子欠損(KO)マウスと野生型(WT)マウスの灌流固定後、実体顕微鏡下で膵臓より膵島組織片を採材し、エポン樹脂包埋した電子顕微鏡用標本を作成し、観察した。膵β細胞の形態評価法として、ホルモン顆粒中のインスリンペプチド凝集体以外の物質や低電子密度凝集物の蓄積頻度、及びリソソームの数的ないしは質的変化を指標とした。解析は、連携研究者のみが遺伝子型を把握しているブラインドテストにより実施し、現時点では遺伝子型と形態解析結果との対応は付けていないが、ペプチド凝集物以外の物質や低電子密度凝集物の蓄積頻度の増加やリソソームの数的増加ないしは質的変化(リポコンドリアの形成)において、マウスを2群にグルーピングすることができた。さらに、我々が解析によって得た知見は、競合する海外の研究グループが報告した先行データとは異なる結果を示しており、膵β細胞におけるフォグリン遺伝子の欠損効果及びフォグリンの生理学的機能の解釈において重要な示唆を与えている。 2. 膵β細胞を含む内分泌細胞の分泌顆粒膜に局在するフォグリンと顆粒膜タンパク質などの糖修飾との関連性について、KOマウスとWTマウスの膵β細胞における糖質の局在を電顕細胞化学的に解析した。コラゲナーゼ法により膵島を単離し、4%PFA-0.5%GAにて固定した後、LR-White樹脂包埋標本を作成した。中性糖の検出は、過ヨウ素酸-チオカルボヒドラジド-タンパク銀-物理現像法により行い、観察した。両マウスともに、分泌顆粒膜やリソソームなどに中性糖陽性反応が認められた。分泌顆粒膜について比較したところ、その反応性に顕著な違いは認められなかったが、やや強い反応を示す細胞が遺伝子欠損マウスで多く観察された。また、リソソームに見られた陽性反応において、遺伝子欠損マウスでやや大きいものが多く認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. フォグリン遺伝子欠損マウスにおける膵β細胞のインスリン顆粒の微細形態に関わる解析はおおむね順調に進んでおり、いくつかの新しい知見が得ている。特に、先行研究の研究結果との差異を明確にしたことの意義は大きく、違いの原因を明らかにする方向へと展開できる。また、過ヨウ素酸-チオカルボヒドラジド-タンパク銀-物理現像法による中性糖の検出は、これまでに外分泌細胞の酵素原顆粒における報告しかなかったが、本研究によって初めて内分泌顆粒へ適応できた点は意義深い。 2. フォグリン遺伝子欠損マウス及びSgIII遺伝子欠損マウスにおける内分泌組織の生化学的解析では、分泌顆粒のライフサイクルに関わるタンパク質群の発現量の変化を調べる計画であるが、フォグリン遺伝子欠損マウスにおいて、カテプシンサブタイプの発現変化を見出しているものの、プロセッシング酵素や亜鉛トランスポーターなど、その他の関連タンパク質の解析がやや遅れている。 3. 2つの系統の遺伝子変異マウス同士を掛け合わせることによる分泌顆粒タンパク質の機能解析に用いる新たなマウスモデル系統の準備は遅れている。海外からの導入系統を計画している中で、個体化前の凍結卵の状態であることが、業者間との導入価格の調整において遅れたことに起因している。
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今後の研究の推進方策 |
1. フォグリン、セクレトグラニン3及び亜鉛トランスポーターの遺伝子欠損マウスの内分泌組織において、形態免疫組織化学及びレクチン法により、電顕糖質化学解析を発展させる。特に、プロホルモンプロセッシング酵素であるカルボキシペプチダーゼ遺伝子変異マウスと亜鉛トランスポーター8の遺伝子欠損マウスは海外からの導入(研究上の使用制限がほとんどない)を計画しているので、迅速に進める。諸事情により、いずれかの系統が入手できなくなった場合でも、他の研究者に研究上の使用制限に関して条件付きの分与を依頼するなどして対応し、研究の推進を図る。 2. 連携研究者である群馬大学鳥居博士及び秋田県立大学穂坂博士より、フォグリン及びセクレトグラニン3遺伝子欠損マウスの組織は採材させていただける状況にあるので、下垂体及び膵島について分泌顆粒の選別輸送に関わるタンパク質相互作用の解析を進める。 3. 各種遺伝子欠損マウスの内分泌組織に加え、ゲノム編集技術等でフォグリンやセクレトグラニン3遺伝子をノックアウトした膵島β細胞や下垂体細胞の安定株を作製し、ホルモンや分泌顆粒の動態解析や分泌顆粒形態の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外からの遺伝子欠損マウスの導入に関わる計画が遂行できなかったため、かかる金額において次年度使用額が生じた。その理由として、実験動物輸入業者との交渉開始が時期的に遅れたことに起因し、業者との交渉過程で、導入系統が個体化前の凍結卵の状態であることが分かり、業者間との導入価格の調整が遅れたことがあげられる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度中に遺伝子欠損マウスの導入のため、予算額100万円程度をマウス系統の購入費及び輸送費(税関手続き等を含む)として使用する計画である。
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