研究課題/領域番号 |
16K08088
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
佐々木 典康 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (20307979)
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研究分担者 |
金田 剛治 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (10350175)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | スンクス / 糖代謝 / レプチン / 肝臓 / 脂肪組織 |
研究実績の概要 |
本研究は、肉食性(食虫性)の実験小動物であるスンクス(Suncus murinus)を新たな糖代謝解析モデル動物として確立するために、スンクスの糖代謝調節機構を明らかにすることを目的としている。 平成28年度には脂肪細胞から分泌されるアディポカインであるレプチンの遺伝子クローニングを行い、その一次構造を明らかにした。多くの哺乳動物で報告されているレプチンは167アミノ酸残基で構成されているが、今回我々が得たスンクスのレプチンは170アミノ酸残基であり、C末端側の120~122番目にPQVの三アミノ酸残基の挿入が認められた。一次配列全体は他の動物種と高い相同性を保持しているが、このPQVの挿入を持つ他の動物種は現状のデータベース上には存在しなかった(2017年9月開催の第160回日本獣医学会学術集会(鹿児島)にて発表)。 得られた一次配列を元に系統樹解析を行ったところ、スンクスのレプチンはヨーロッパトガリネズミと近縁であり、マウスなどのげっ歯類や人、イヌ、ネコなどとは分岐していることが確認された(これらのデータに関しては2018年3月に開催された第12回スンクス研究会において報告を行った)。 スンクスレプチンに特有なPQVの挿入による影響を調べるために、可溶性発現が導入しやすいと言われるブレビバチルスによる組換え体の発現を試みたが組換えレプチンの発現は得られなかった。 また肝臓での糖代謝調節メカニズムを解明するために、TCA回路の酵素であり糖新生とTCA回路の分岐点となる律速酵素であるリンゴ酸脱水素酵素(MDH)のクローニングを行い、一次配列を決定した。このMDHは細胞内でアセチル化による活性調節を受けることがマウスなどで報告されている。スンクスにおいてもMDHの一次配列は高度に保存されており、アセチル化の標的アミノ酸であるリジン残基が保存されていることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度に実施予定であったスンクスレプチンのクローニングは予定通りに終了した。しかしその後の組換え体発現実験において、当初予定していたブレビバチルス発現系での発現系構築ができなかったため、急遽、定法の大腸菌による発現系へと切り替えざるを得ない状況となった。大腸菌での発現系では組換えレプチンが不溶性の封入体を形成するため、可溶化条件を検討する必要があり、予想以上に時間がかかってしまった。遅れを取り戻すために、PQV欠損組換え体をPCR-mutagenesisにより作製し、同時進行で発現させている。 当初から計画していた肝臓における糖代謝関連酵素のin silico解析についてはグルコキナーゼおよびグルコキナーゼ調節タンパク質について実施済みであるが、この遺伝子が本当に発現していないのかを調べていく予定である。同じく糖代謝関連酵素であるリンゴ酸脱水素酵素(MDH)のクローニングと組換え体発現に取り掛かっており、平成30年度には、この組換えMDHを用いてin vitroでのアセチル化による酵素活性への影響を測定する予定である。 平成28年に実施予定であったスンクス初代培養肝細胞系は大幅に遅れており、早急に実験に着手していきたいと考えている。 全般としては着実にデータが蓄積してはいるが、当初計画から判断すると研究全体の進捗状況は、やや遅れていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
現在実施中のレプチン発現系を早急に完成させ、安定して組換えレプチンを確保する。この組換えレプチンを標準物質として、スンクスの血中レプチン濃度測定系を構築する。基本的にはイムノブロット法を利用し、検出用の抗体としてはスンクスレプチンのペプチド配列で作製したポリクローナル抗体を利用する(既に作製済み)。正常状態での血中レプチン濃度、食後あるいは絶食時のレプチン濃度を測定し、代謝状態との相関を検討する予定である。またPQVを欠損させた組換えレプチンを用いて、スンクスへ投与することで摂食や代謝にどのような影響を与えるか調べる予定である。 肝臓の糖代謝関連酵素に関しては組換えリンゴ酸脱水素酵素を使って酵素活性を測定するとともに、予測されるアセチル化部位のリジン残基をアルギニン(脱アセチル化を再現)あるいはグルタミン(アセチル化を再現)に置換したものを作製し、酵素活性の比較を行う予定である。また絶食させたスンクスから肝臓を採取し、実際に肝臓内のMDHがどの程度のアセチル化を受けているか明らかにする。 初代培養肝細胞系が確立できれば、培養細胞を用いてアセチル化の影響を調べることが可能となり、より詳細な糖代謝機構の解析が期待できる。 以上の結果を取り纏め、肉食(食虫)動物であるスンクスの代謝特性をげっ歯類やヒトの代謝と比較することで、肉食が代謝に与える影響を比較動物学的に考察していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の使用額において2082円の残金が生じたが、金額が小さいため必要な消耗品の購入には不足するため平成30年度の予算と合算して使用することとした。
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