本研究では、神経分化を誘導した皮膚線維芽細胞を局所投与して、生体内環境を利用して神経系細胞に直接転換させ、簡便に臨床応用できる神経再生医療の基盤技術を確立させることを目的とした。 一年目の研究では、馬の皮膚組織から皮膚線維芽細胞を効率的に分離する手法を確立し、それらの細胞を、フローサイトメトリーで選別することで、組織再生能の高いCD90(+)の割合を増加できることを確認した。次に二年目の研究では、皮膚線維芽細胞を神経細胞用培地で培養することで、神経系細胞への分化を誘導できることが示され、また、それらの細胞を脊髄神経の外植片内に注射することで、神経分化に関連する遺伝子活性を増加できることを確認した。さらに、脊椎腔内に挿入した内視鏡を介して、脊髄内部に細胞を注入する手法も確立した。 そして、三年目の研究では、馬の皮膚組織から分離・選別したCD90(+)の皮膚線維芽細胞を、神経細胞用培地にて神経系細胞へと分化させたあと、頚部脊髄内に注射した。その後、脊髄組織を採取してコラゲナーゼ分解してフローサイトメトリーで解析したところ、注射したCD90(+)細胞の生存性が認められ、また、CD(-)のレシピアント組織の神経細胞においても、非注射部位の神経細胞に比較して、神経分化に関連する遺伝子活性が増加していた。さらに、神経系細胞に分化させた皮膚線維芽細胞をクモ膜下腔内に注射した場合にも、同様に脊髄組織内でのCD90(+)細胞の生存が確認された。以上の結果から、皮膚組織から分離した線維芽細胞を、ダイレクトリプログラミングにて神経系細胞に分化させ、それらを脊髄組織内に注射することで、損傷した神経組織の再生を誘導できることが確認された。また、脳脊髄液内に同細胞を注射することで、遠隔部位の損傷組織にも細胞を遊走・移植させて治療できる可能性も示唆された。
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