発生期における膵島形成機序を解明するため、Sox9-CreERT2; Rosa26-rainbowマウスを用いて、多色細胞系譜追跡実験を実施した。当該マウスでは、タモキシフェン投与により誘導的にCre-loxPシステムが働き、元来緑色蛍光を呈していたSox9陽性細胞が、青・橙・赤色のいずれかの蛍光色に特異的に標識される。本特性を利用して、胎生12.5日目(E12.5)膵臓原基の生体外(ex vivo)培養組織内のSox9陽性膵前駆細胞を標識するため、タモキシフェンの濃度および誘導時期の最適条件を模索し、決定した。続いて、膵島形成過程における個々の細胞動態を詳細に解析するため、E14.5からE18.5までの4日間(96時間)の長期3次元タイムラプスイメージングを実施したところ、Sox9陽性膵前駆細胞の細胞系譜をリアルタイムで撮影することに成功した。さらに、タイムラプスイメージング終了時点での膵島発生状態を確認するため、内分泌細胞に特異的な各種抗体を用いて免疫組織染色を施した後、共焦点レーザー顕微鏡観察を行った。その結果、E18.5膵臓培養組織において、グルカゴン陽性α細胞、インスリン陽性β細胞およびソマトスタチン陽性δ細胞の少なくとも3種類の内分泌細胞への分化を認めた。成体組織に比べ膵島の形態は未発達であるものの、内分泌細胞が球状に集合した小型の膵島が認められた他、分散ないし集合過程の細胞塊が認められた。さらに、同一膵島内に青・赤・橙色の多色で標識されたαないしβ細胞の存在を確認した。このことから、複数のSox9陽性膵前駆細胞を起源として、一つの膵島が形成されることを示す直接的証拠を得るに至った。
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