研究課題/領域番号 |
16K08093
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
大石 勲 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (50314472)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生物プロセス / ニワトリ / 遺伝子改変 / ゲノム編集 / 組換え蛋白質 / 抗体 / 鶏卵バイオリアクター |
研究実績の概要 |
ヒト組換え抗体を用いる抗体医薬はその有効性から大成功を収めているが、現在の培養細胞を用いた製造法は莫大な設備投資と高額な生産コストを必要とすることから、これに代わる製造法の開発が必要である。ニワトリを遺伝子改変し、卵白に組換え蛋白質を安価に大量発現する鶏卵バイオリアクターが抗体医薬生産に適用できれば、様々な問題解決に繋がることが期待される。我々はヒト乳がん抗体医薬(トラスツズマブ)をモデルとして、これを卵白に分泌する組換えニワトリの樹立を行っている。本研究では卵白蛋白質オボムコイドの翻訳開始点に抗体重鎖および軽鎖遺伝子ノックインするが、両遺伝子産物の間に自己切断型2Aペプチド配列を挿入し、ヘテロ4量体の抗体分子が卵白へ分泌されるか検討した。昨年度、始原生殖細胞を用いて抗体遺伝子をノックインし、これを移植したキメラニワトリの精液中にトランスジーンの発現を認めたが、本年度はこれを交配してG1世代にノックイン雄、雌個体を得た上で、さらにこれら個体を性成熟させた。ノックインG1雌は卵を産んでおり、卵白にヒト抗体分子が存在すると期待された。非還元の条件下でSDS-PAGE及びウエスタンブロッティングを行ったところ、重鎖2軽鎖2からなる四量体のヒトIgGが卵白中に存在することが示された。更に、ヒトIgGに対するELISAを行ったところ、卵白中に約0.2-0.5mg/mlの濃度でヒトIgGが存在することが明らかとなった。これは鶏卵バイオリアクターを用いて従来試みられてきたヒト全抗体発現量としては最も高濃度であるが、我々が過去に実現したヒトインターフェロンβの鶏卵内発現(2-4mg/ml)と比較すると1/10程度である。異なった個体由来卵で同等の発現が認められることから、オボアルブミン遺伝子発現機構に制御されてヒト抗体分子が鶏卵内に分泌されたものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度予定した主なプロセスは、(1)G0キメラ個体の交配とG1ノックイン後代の樹立、(2)ノックイン雌後代からの採卵、(3)ノックイン卵におけるヒト抗体の発現解析であり、いずれも本年度実現することが出来た。 (1)G1ノックイン後代の樹立:複数系統の後代を得ており、個体間の同一性検証が可能となった。実際、個体間の違いはウイルスベクター使用の従来の鶏卵バイオリアクターと比較すると極めて少なく、優れている。 (2)ノックイン雌後代からの採卵:複数雌より採卵することが出来、卵が得られないといった事態は避けることが出来た。複数の鶏由来卵の解析を行ったが、これまでに得られているヒトインターフェロンβノックイン卵のような明瞭な白濁した卵白は認められない。 (3)ノックイン卵におけるヒト抗体の発現解析:ヒト全抗体が鶏卵中に存在することが明らかとなった。また、従来の方法で試みられたニワトリ遺伝子改変による全抗体産生よりも遥かに多量の抗体を得ている。一方で同じノックイン卵でもヒトインターフェロンよりは収量が少なく、発現動態の違いや複合体分子のため少ないといった可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に樹立したG1ノックインニワトリ由来卵の解析を続ける。特に得られた抗体の抗原認識能等が解析すべき重要なテーマとして残されている。また、G1個体の妊性についても明らかにする必要がある。雄は卵管組織を持たず、オボアルブミンも発現しないため、妊性に問題は無いと考えられるが、G2個体が得られるか、またG2雌由来の鶏卵においてもヒト全抗体(ハーセプチン)が得られるか、G1との差異の有無が問題となるので、これらの点について解析を行いたい。
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